入道雲は盛り上がり、夕立に雷鳴が轟く。せつなさ濃度はぐんぐん上昇する。
それとともに訪れる、夏休みのラストスパート。子どもらは宿題の残り、というか大部分を抱えて、あせりの表情をにじませはじめる。
わが息子・丘の夏休みの宿題のひとつに「職業調べ」がある。なんでもいいから職業について調べよという課題だ。
でも彼は、これといって興味のある職業はないらしい。父親の仕事にも母親の仕事にも全然関心がないようだ。
数日前にいっしょに生協へ買い物に行ったら、レジの横に「堺の刃物とぎ、8月22日」と書いてあったので、なんとなく、「丘よ、職業調べは砥ぎ屋さんはどう?」と言うと、彼は「あ、そうしよかな」と言う。
で、砥ぎ師にインタビューすべく、夕べはいっしょに質問項目を10ほど考えた。
そして本日。駅前の「宮本むなし」でうどんセットを食ってから、刃の欠けた包丁2本をタオルに包んで生協へ向かう。
砥ぎ師は生協の玄関先で出店を出していた。50歳代後半の男と30歳代の男、2人とも上背があってゴツイ体格、よく日に焼けている。
刃物を扱う男たちには一種独特の迫力がある。
体重36キロのヒョロヒョロの丘の顔に緊張が走る。できれば逃げ出したいというような顔だ。
「ほな、おとうは上の階で買い物してるから。がんばれよ」
と言って肩をポンとたたき、デジカメを手渡して、俺は立ち去った。
生協の2階へ上がり、どきどきしながら丘を待つ。
10分ほどして丘が現われた。無事にインタビューはすんだと言う。メモを見ると、準備した質問項目は全部聞けたようだ。
「ほんで写真は撮らしてもろたん?」
「いや、近寄ると危ないって・・・」
「もっぺん行って撮らせてもらい。砥いでるとこ撮りたいって頼んだらええ」
そう言って再び送り出す。
少しして、生協2階のベランダから身を乗り出し、玄関先の砥ぎ屋の出店を覗いてみた。
すると、回転盤に包丁をこすりつけて研磨する男のナナメ後ろに、及び腰でカメラをかざす丘の2本の腕が見えた。
思いがけず胸がツーンとなった。
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