藤井俊介さんインタビュー

この経験から厚生省は
何を学んだのか?


『いのちジャーナルessence』No.2(2000年2-3月) 特集「本気でやばい、インフルエンザ予防接種の復活」より転載


 1999年11月26日、予防接種禍大阪訴訟の上告審が最高裁で和解した。
 1973年の東京訴訟の提訴以来、26年間にわたる集団訴訟の全面終結だ。先に決着していた名古屋・福岡・東京の3訴訟と合わせて、計約140人の予防接種被害者のほぼ全員に対して国が賠償金や和解金を支払うことになる。
 これらはいずれも危険な予防接種をずさんな方法で国が強制接種した結果起きた被害であり、厚生大臣は今回の決着について「厳粛に受け止め、今後とも安全で効果的な予防接種行政の推進に努めたい」とコメントした。

 なのにどうして、奇しくも同時期に疑問満載のインフルエンザワクチンの大キャンペーンなのか。そこに「過ちから学ぶ」という姿勢はまったく見られない。
 長女を2種混合ワクチンの被害で重度障害者にされて以来、東京訴訟原告団の幹事として裁判を引っ張るかたわら、予防接種情報センターを設立して副作用被害のデータ収集や被害者救済支援に奔走してきた藤井俊介さんに、長年の裁判を振り返りながら今冬のインフルエンザワクチン騒動について話を聞いた。


(聞き手・松本康治/いのちジャーナル編集長)


厚生省はナチスだったんですね

松本▼今回のインフルエンザワクチン・キャンペーンは、裁判をたたかってこられた方には皮肉というか、嫌味というか、推進派も懲りないですね。

藤井▼これは日本の構造的な問題ですから。薬害エイズも同じですが、官僚の無謬性に基づくシステムに根本があります。政策決定をする官僚に間違いはない、責任をとらなくていいという、官僚独裁的な態度。これを裁判所も追認している。官僚の間違いを指摘すること自体が国のマイナスになるという考え方です。これが変わらない限り、同じことが何度でも繰り返されます。

松本▼もしそうだとすると、藤井さんや被害に遭った人たちの長年の苦労が、社会に活かされていないことになってしまう。たいへんな損失だし、愚かしいですね。
 藤井さんたちの経験は、一般の人々が国の強制で子どもに予防接種を受けさせられ、思ってもみなかった結果が出たときに、接種を受けさせた側が被害者をどう扱うか、を示すものでもあったと思います。そういう意味で、これまでの裁判を少し振り返ってみたいと思います。
 予防接種禍の集団訴訟は解決まで26年かかったわけですが、裁判ではまず何が問題になりましたか。

藤井▼被害者である原告は、まず裁判で被害の事実を証言したわけです。こういうことが起きていますと。すると裁判所はこう言いました。「それのどこが法律に触れているのか」。予防接種法では、ワクチン接種は国民の義務とされているが、副反応(ワクチンの害作用)については記述がない、ということで。被害者は憲法を論拠に訴えるのですが、地裁レベルでは憲法判断にまで踏み込まない。ここで裁判は立ち往生し、長引く原因のひとつになりました。

松本▼専門家の理屈ですね。常識的には、強制的に受けさせて被害が出たら、受けさせた者が責任をとるのが当たり前ですけど。

藤井▼そこで最初は、予防接種によって被った損失を補償せよという「損失補償論」を主張し、80年頃からは、国家公務員の過失による被害は国が補償するという「国家賠償法」違反を訴えました。そして、東京・名古屋・大阪・福岡の4ヵ所の地裁・高裁でおおかたが勝訴しました。ところが、被害発生から提訴まで20年以上経っている人たちはいわば時効だとされて(除責期間)、高裁でも救済されなかった。しかし、被害当時は行政は「予防接種でそんなことは起きない」と断言していたので、提訴できなかったんです。それで最高裁までいって、また長引いた。
 この20数年間は、時代の変わり目でもありました。最近になって司法の民主化が言われますが、昭和50年代までは厚生省も裁判所も古い体質を引きずっていました。

松本▼たとえば?

藤井▼裁判では原告側と厚生省側の主張が真っ向から対立したんですが、ドイツでも予防接種の裁判が2回行われていて、日本の私たち原告の主張は、戦後の西ドイツ共和国時代に下った判決と同じものです(下の囲み下段)。それに対して厚生省の主張は、ナチス時代の判決と同じなんです(同、上段)。全体の福祉のための犠牲はやむをえないと切り捨てている。

松本▼うーん、厚生省はナチスだったんですね。

藤井▼そうなんですよ。

1937年 ライヒ最高裁判所判決(※は日本政府の陳述内容)

「特別に法律により命ぜられた措置により、補償が必要とされる場合には適用されうるが、全国民に同様の行為・不作為・受認を求め、個人の利益を等しく侵害するような場合には、特別の場合ではない。予防接種はこれである。例外的に重大な健康被害を招いても、特別の犠牲とは見なさない。」
※予防接種の対象は、すべての国民に向けられているから、その結果重い障害が生じても、特別の侵害ではない。

「予防接種は、公共の福祉と共に個人の利益にもなっている。」
※社会防衛と共に、個人防衛にもなっているから、個人の権利の侵害になっていない。

1953年 西ドイツ連邦最高裁判所判決(※は東京原告の陳述内容)

「予防接種は、健康に危険のあるときは、中止することを明文規定しているから、重大な健康上の障害までを法が要求しているわけではない。」
※重大な被害は、法の意図する目的的結果ではないから、特別犠牲と位置づけるべき。

「生命・健康は、財産よりも高い権利と考えるべきで、個人の生命の不可侵性は、憲法に結びつけられることにより初めて発生した権利ではなく、生命と健康という財貨は、その創造と性質において法秩序に先行したのであり、すべての人は、それに対応した法律上の規定とは独立に、これに対する権利を有する。もしも財産に対する侵害に対しては補償請求権が認められ、健康被害――加えて重大な財産的損害をも生ずる――に対しては認められないとすれば、それは個人の生命身体の価値と、その要保護性に関する一般的報観念と矛盾する。
※(この部分は日本政府の主張に対する原告側の反論と同じ)


被害立証がより困難に

松本▼厚生省は、長年にわたる予防接種の裁判で負けて、反省したんでしょうか。

藤井▼全然反省していないと思います。

松本▼というのは?

藤井▼裁判の一番の争点は、因果関係です。みんなが予防接種を受けたのに、なぜその子だけが被害に遭ったのか。その証明が難しい。それは蓋然性(状況からして、その可能性が高いという要件)から判断するしかありません。その基準として私たちは白木4原則(下の囲み)を提案し、裁判所はそれを採用した。その結果国は敗訴し、判決を受諾しました。
 ところがその後のMMR(麻疹・風疹・おたふくかぜの新3種混合ワクチン)による被害の裁判で、厚生省の官僚は「あれは大臣が勝手に受諾したんだ」とか言って、未だに白木4原則を認めていないんです。官僚が大臣や裁判所の判断を認めないんですから、日本は行政独裁です。
 だから被害が起きたら、また同じようにそれを認めさせる裁判をしなければなりません。逆に厚生省は長年の裁判で被害者側の手の内を全部知っていますから、今後はより困難になるでしょう。資料はすべて国が持っていますし。

「白木四原則」
脳外科の第一人者・白木博次氏による、因果関係判定の物差し。


(1)ワクチン接種と予防接種事故とが、時間的にも身体の部分上も密接している。
(2)他に原因となるようなことが考えられない。
(3)副作用の程度が、他の原因不明のものによるよりも質の上でも量の上でも非常に強い。
(4)事故発生の状況が、既にわかっている科学的な事実と比べてみたときに納得できるだけの説明ができる。


医師の無責任が目に余る

松本▼それを変えていくには、何がポイントになるでしょう。

藤井▼予防接種の被害は、絶対に起きてはならないものです。病気の治療による薬害とは違い、予防すると言って健康な子どもに注射し、死なせたり重度障害者にしたりするわけですから、詐欺行為です。その認識に立って、責任を誰がとるかを再検討すべきです。
 予防接種法には国の責任が明記されていますが、これは医師やメーカーの免責につながります。
 日本医師会は「副作用で事故が起きたら補償せよ」と主張していますが、驚いたことにこれは被害者への補償ではなく、接種した医師への補償なのです。近所の評判が悪くなるからということで。医師の団体がそういう人権感覚ですから、たとえば日本脳炎の予防接種に来た子どもに間違えて別のワクチンを注射してしまったが、幸か不幸か有効期限を過ぎたワクチンだったので大事に至らなかった、などという事件が起きるのです。もし自分の責任になると思ったら、こんないいかげんなことをするでしょうか。とにかく医師の無責任は目に余ります。
 また、アメリカなどではPL(製造物責任)法で事故はメーカーの責任になりますが、日本では国がかぶってくれるので、外国メーカーの草刈り場にされる危険性があります。
 92年の日経新聞に、世界最大の医薬品メーカーであるメルク社が茨城県つくば市に研究拠点を建設したということで、同社のバジェロス会長へのインタビュー記事が載っています。バジェロス会長は「今後有望な研究領域は」との質問に、「ワクチンが最も重要な部門」「1回の注射でB型インフルエンザ、B型肝炎、ジフテリア、破傷風、百日ぜき、ポリオを予防できるワクチンを開発中だ」と答えています。日本の子どもが世界のモルモットにされる可能性さえあるわけですが、日本ではインフルエンザのように実験の結果効果がないとわかったワクチンでもやってしまうわけですから、モルモットにもなりがいがありません。
 ですから、予防接種法の構造自体を変えなければダメです。事故が起きたら個々のケースごとに原因を究明し、それぞれの責任を問うようにする必要があります。
 責任の取り方は2つです。その事故がワクチンによる被害かどうかを明らかにすることが1つ、被害に見合う補償をするかどうかが2つ目です。今はその両方とも機能不全に陥っています。


いいかげんな調査と補償

松本▼その1つ目ですが、厚生省による事故の実態把握はどういう状況ですか。

藤井▼ワクチンの副反応の調査は極めて不完全です。厚生省は各都道府県に調査・報告するよう指導しており、このことだけは一応の進歩です。でも、それを県が出したがらない。福井県武生市で、風疹の予防接種をしたとたん10人ほどがショック状態となって接種が中止された事件がありました。ところが厚生省の副反応報告書にはそれが載っていない。厚生省に聞くと、「あんなショックは通常の反応だから、報告が来てません」と言うんです。もう完全に感覚がマヒしている。その報告も、「接種後21日以内の副反応を報告せよ」ということになっていますが、この日数にも根拠はありません。アメリカは28日です。1週間分、副反応数を少なくしたいのではないかと思われても仕方がない。
 ちゃんとした情報を集めてもらわないと、不完全情報を公開して安全と言われても信用できない。

松本▼補償についてはどうでしょう。被害に遭った方々は今、どういう状況なんですか。

藤井▼予防接種による被害の特殊性は、てんかんや身体障害、知的障害など二重三重の合併障害が1人の被害者に起きることです。その生活や介護の実態を国は知らない。日本の福祉はそういう障害を想定しておらず、これに見合う法律がありません。予防接種による被害であると認めても、国は対応できないんです。そういう重く複雑な障害を、強制的な予防接種でつくってしまっている。ですから被害者は、結局ほとんど満足な補償もなく、家族の犠牲の上に必死で生きています。


老人がターゲット

松本▼さて、インフルエンザワクチンの復活でまたそのような被害者が生み出される可能性があるわけですが、厚生省はこれまでの予防接種被害の経験を何らかのかたちで活かそうとしていますか。

藤井▼我々からすると、厚生省は経験を別の意味で活かしています。つまり、より巧妙になった。厚生省は、さすがにインフルエンザワクチンを子どもに注射しろとは言いません。でも今度は、老人には効果があると言い出した。
 仮に特別養護老人ホームに入っている老人にワクチン接種して何らかの事故が起きたとして、それがワクチンによるものだと証明できるでしょうか。少子高齢化時代に、無理に子どもに接種する必要はありません。うまいこと考えたものです。
 厚生省は各都道府県が老人に接種するのはどんどんやれ、という姿勢です。さっそく大阪府と神奈川県は、接種を受ける人に2回分の費用1万円の半額を補助することになりました。こういう県は今後増えていくでしょう。私が一昨年、横山ノック知事に「予防接種の被害者がこれだけいる」と言った時は、「大阪府はカネありまへんねん」という答えだったのですが。
 とにかく、それで医者とメーカーは儲かる。事故が起きて老人が亡くなっても原因はうやむや。介護に疲れた家族も黙るでしょう。施設はベッドが回転して好都合かもしれません。推進派には万々歳です。人権を考えると大問題ですが、彼らはそんなことはまったく頭にありませんから。


こうすべきだ

松本▼今後、最も力を入れるべき改善点は何でしょう。

藤井▼まずは副反応の報告を徹底し、公開することです。それには、都道府県からの報告を待つのではなく、直接情報を集める機関が必要です。直接情報を集めるためには、接種を受けさせる親に、こういう反応が出たと書き込んで投函する「報告はがき」を渡すようにすべきでしょう。そのほうが、カラーのパンフレットを100万枚も作って配布するよりよっぽど安価で簡単です。でも、厚生省はそういうことはやらない。恐ろしい情報を集めたくないんでしょう。
 もうひとつは、医師の責任を問うということです。接種現場でのずさんさを改善するには、これしかありません。1970年に、品川で3種混合ワクチンを接種された赤ちゃんが死亡し、警察が接種医2人を取り調べた結果、「接種のとき手落ちがあった」として過失致死の疑いで書類送検することを決めた事件がありました。すると翌日からたちまち日本中の医師会が集団接種のボイコット運動を始め、結局その圧力に屈してか不起訴処分となってしまいました。
 いいかげんな接種をされて死んだ子どものことを医師たちは何も考えていない。自分たちの責任逃れだけ。おそろしいことです。

ふじい・しゅんすけ◆予防接種情報センター代表。著書に『まちがいだらけの予防接種』(小社刊)他。

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