北薩 出水
ツル地獄プクプク天国

(2004年1月23〜24日)

埋め尽くす1万羽
くすぐられて泡々
蚊柱のごとく・・・(04.2.3)
超時空集落(04.2.3)
埋め尽くす1万羽---ぬぁんじゅごりぁああぁ〜(松田優作で)

 わが姉と昼に広島で待ち合わせて新幹線で博多、そこから特急「つばめ」で午後4時半に出水駅到着。
 不知火海に面した、鹿児島県北端のまちだ。

 出水駅は、みごとなまでに殺風景だな。街はいずこ・・・。
 きたる3月、九州新幹線の新八代〜鹿児島中央間が開業する。ここ出水駅のすぐ背後にその新しい駅が造られており、周囲は駅前広場の工事が進められている。

 
 巨大温室群みたいな新幹線駅、手前右側の長方形ビルが今の出水駅

 ちなみに、新幹線開業にともなって、この鹿児島本線の八代〜川内間はJRに切り捨てられ、「肥薩おれんじ鉄道」という第3セクターとして再出発することになっている。長野新幹線や、東北新幹線の八戸延伸と同じパターンだ。

 いつもならここから万歩計をリセットして歩き始めるわけだが、今回はいきなりレンタカー。うひょう〜。
 さっそくそいつで海辺の「東干拓地」へ向かう。
 なんでも、その東干拓地というところは、ツル越冬地としては世界最大っちゅーことらしいのだ。

 ツルといえば釧路と思っているアナタ。じつは釧路なんてツルの世界じゃあ序の口なのよ。それに対して出水は横綱も大横綱、ケタ外れのツルが世界中から殺到しているという恐るべき事実を今後覚えておくように。

 方向オンチの姉によると、世界には15種類のツルがいるが、そのうち日本に飛来するのは7種。出水にはその7種全部が現れる。
 しかも年々その数は増えていて、50年前には300羽ほどだったのが、近年じゃなんと1万羽を超えているらしい。
 こんなにたくさんのツルが集まっているところは、出水のほかには地球上に存在しない。どうだまいったか。

 駅から10分も走ると、冬枯れの干拓地に着いた。

 一般的にツルといえば、凍てつくような山かげの湿原に人知れず2〜3羽そっと立って遠くを見つめ、ときおり「コー、コー」ともの悲しく鳴きながら、スノーダストの舞い散る中で優雅に求愛ダンスを踊っているもんだろ。

 ところがここのツルどもの群れときたら・・・何よ、このありさまは?

  あぜ道を埋め尽くす大群

  ツルに混じってカモもすごい数 (ともに翌日撮影)

 なんかもうほとんど牧場みたいなことになっているのである。ザケンナヨ! と叫びたくなる。
 テレビ番組の「地球ふしぎ大自然」なんかではアフリカのサバンナなどの映像がよくこんな感じで出てくるが、実際に目の前で見るとすごい迫力。ここは日本なのか?

 だが残念ながらこれは喜ばしいことではないらしい。日本の他の地域や中国・朝鮮半島など、あちこちの飛来地で環境破壊が進んだ結果、ツルどもは安心して越冬できる場所がなくなってここへ集まってきているんだと。
 言うまでもなく、狭いところにたくさん集まっていると、伝染病などで一気に絶滅という可能性もあるわけで、かなりヤバイ事態が進行しとるっつーわけだ。

 しかしまーそうだとしても、スゴイものはスゴイ。もしかするとこれは世界に誇るべき日本の偉大なる光景ではなかろうか。フジヤマ・ゲイシャ・出水のツルだよこりゃ。

 鳥を偏愛する姉は横から僕に「ツルに近づくな!」「音を立てるな!」といちいちうるさいわけだが、人間や車が近づいても、10メートルくらいまでの距離なら逃げない。あっちこっちで田んぼの土をクチバシでつついている。

  道路へも堂々進出

 黒っぽいナベヅルは全世界の生息数のうち9割(約8000羽)がロシア沿海州あたりからここへ飛来し、やや大きくてきれいなマナヅルは同6割(約3000羽)が中国東北部あたりから飛来しているっちゅーことだ。
 なんだか今回はほとんど姉からの聞き書きみたいになっとるな。わはは。

  
 (左)ナベヅル  (右)マナヅル  (ともに翌日撮影)

 ここにいるツルの大部分はこの2種類だが、中には迷鳥としてタンチョウやアネハヅルなども混じる。そういうのを見れた人はラッキーなわけだが・・・おや?

 弟 「なんかそこに真っ白なツルがおるけど」
 姉 「えっ? どこ? アッ! アッ! あれは、そそそ・・・ソデソデ・・・!」

 夕方だったせいで写真はぼやけているが、それは間違いなくソデグロヅルだった。今年は1羽だけ飛来しているのが確認されているとのことで、これがその1万羽分の1羽。全世界でも3000羽くらいしかいない絶滅危惧種らしい。

  ソデグロヅル(手前の黒いのはナベヅル)

 鳥に関心のない人にとっては「だから何?」なわけだが、方向オンチの姉は異常に興奮している。

 もう日が暮れかけてきた。今夜の宿は山の中の温泉だ。暗くなると道がわからなくなる。しかし姉は田んぼのあぜ道に車を停めたまま、双眼鏡を目から離そうとしない。
 「明日またなんぼでも見たらええがな!」
 イラつきながら、僕は何度も同じことを言わねばならなかった。
くすぐられて泡々---湯川内温泉

 なんとかツル観察を切り上げて、山間の温泉宿へ。
 出水市街地から数kmの山道を車でたどると、湯川内温泉というのが湧いている。温泉ファンの間では知る人ぞ知る秘湯で、一度は行ってみたいとあこがれていた温泉だ。
 1軒宿のかじか荘は1泊2000円の自炊宿泊棟もついた湯治宿。いつもなら間違いなくこっちへ泊まるわけだが、非チープな今回は2食つきの7650円だ。ま、それでも世間的には安いんだろうが。
 部屋は離れ長屋のようになっていて、部屋風呂(もちろん温泉)もついている。真新しい木のトイレも美しく、こんな値段でいいんですかと問いたくなる質の高さ。まったく、鹿児島にはこんな宿がゴロゴロしてるなあ。

  
 (左)自炊棟  (右)本館  どちらもひなびた風情いっぱい

 空腹のあまり、温泉の前にまず夕食。ものすごいスピードで一気食いしたのでどんな料理だったか忘れたが、とにかく魚がうまかった。
 食ったら即、お風呂。
 ここには斜面の上と下に2つの湯小屋があるが(外来入浴300円)、この温泉の最大の特徴は、2つの風呂とも、湯船の底から39度のぬるい単純硫黄泉が自噴していることである。

  下の湯小屋

 まず下の湯へ。木と石でできた、ヒナビの極致のような最高の雰囲気。脱衣籠から3段ほど降りたところに7〜8人サイズの大きな木の湯船がひとつ。どこにも湯の注ぎ口はないのに、かなりな量があふれて石畳の床をサラサラと流れ去っている。
 3人のおじさんが鹿児島弁で語り合いながら静かに浸かっている。すみに2〜3人サイズの石の湯船があり、そっちは沸かし湯が張られている。

 まずはかかり湯。ややヌルっとしたなめらかな無色透明の湯だが、たしかにぬるい。外は雪だ。鹿児島では40何年ぶりとかいう寒波。いそいで身を沈める。
 お湯はびっくりするほど透明度が高く、底はかなり深いのに、手が届きそうに見える。底は砂利と岩になっていて、そこから湯が直接湧き出しているようす。細かい気泡もいっしょに上がってきている。

 目を閉じて、体を半分浮かせた状態でじっと浸かる。
 体温より少し高いだけの湯温は、ちょうど熱のある子どもを抱いている、いや、抱かれているかのよう。あごまで浸かると、底から上がってきた気泡が耳元で「プチ、プチ」とはじける音が聞こえる。ふと見ると、細かい気泡が全身にくっついている。
 温泉のしみこんだ湯船の材木はぬるっとした手触りで、なんともやさしい。ナデナデ。
 これはまじで・・・聞きしに勝る、ご、ご、・・・







 極楽風呂でごわす〜。




 ぬるいから何十分でも入っていられる。地元のおじさんたちも全然あがる気配がない。
 40分ほど浸かって、上の湯小屋へ移動。

 こちらは雰囲気は下の湯小屋ほどではないが、やや小さめの湯船はやはり木でできている。じいさまが一人、ピクリとも動かずに浸かっている。
 おぉ、こっちは下の湯より、さらに湯が湧きまくっている感じだ。気泡の量も多い。しばらく浸かっていると、もう全身が気泡で埋め尽くされて真っ白け。
 体を浮かせていると、下から上がってきた気泡のプクプクちゃんが腰に当たり、尻のワレメをなぞり、キャンタマ袋をくるっとくすぐってから水面へ出てくる。

 いやはやなんともはや・・・

 しかし、こんな温泉がもし神戸あたりにあったとしたら、たいへんなことになるだろなあ。これが300円ねぇ・・・。思わず六甲道灘温泉の芋の子を洗うような狭い源泉浴槽を思い出した。

 じいさまがあんまり動かないので死んでるのかなと思うと、10分に1回くらい「チャプ」と音がする。見ると、さっきと微妙にかたちが変わっているので、どうやら生きているらしい。
 プクプク湧いてくる泡を手のひらに溜めて遊んだりしているうち、あっという間に50分ほど経過した。下の湯と合わせて1時間半も浸かりっぱなしだ。
 さすがにこれだけ浸かると体温が湯温と融合し、39度の熱が出ているみたいで動悸が激しくなってくる。なのに、じいさまは相変わらず上がる気配がない。大丈夫なのか。

 じいさまを置いてお先に上がる。雪道を浴衣一枚で歩いてもまったく寒さを感じない。冷たいビールを飲んでも、ぽっかぽか。

 ちなみに、じつは出発の数週間前から、ちょうど自転車をこぐとサドルに当たって痛い場所(肛門から約2cm)にオデキのようなものができ、日に日に大きくなっていた。さわると痛いし、列車の長旅はつらいなあ・・・と心配していたのだが、なんとそいつは、

 この日の1時間半の入浴によって完治してしまった。

 痛みは完全消失、オデキそのものも行方不明なくらいに縮小した。おそらくこの温泉は痔疾にも著効があるのではないかと思われる。
 湯川内温泉、おそるべし!
蚊柱のごとく・・・---朝っぱらからツル地獄

 翌朝は朝風呂にも入らず早々に出発。朝っぱらからまたツル見物だ。
 出水市のツル観察センターに車を置いて、保護区内をぐるっと歩く。鳥おたくの人間たちが20〜30人、立派なカメラを構えている。
 ツルどもは昨日同様あちこちでノンビリやっているが、中央の水溜りには、ものすごい数のカモがいる。双眼鏡で見ると、ほとんどがオナガガモとヒドリガモ。
 何かの拍子でこいつらがいっせいに飛び立った。上空を群れて旋回し、渦を巻く。うへー。まるで蚊柱が立ったみたいだよこりゃ。

  
 デジカメはシャッターを押してからの反応が遅いので、飛ぶ姿はなかなかうまく入らない

 5kmほど歩いただろうか。他にもバンやハシビロガモなどの水鳥のほか、中国から渡ってくるミヤマガラスやタゲリ、国内渡りのニュウナイスズメなども見れた(すべて姉のご指導による)。
 でもなんかいっぱいいすぎて、ちょっと気味悪いんだが。

  ミヤマガラスずら〜り(ハシブトガラスより小型)

  
 お腹の白いニュウナイスズメ。まるで5線譜にドレミ♪

 ツル観察センターに戻ってちょっと休憩。
 このページ最初の写真はセンター2階の展望所から撮った写真だが、昼間は多くのツルたちは遠方の農地などへ飛んでいくから、これは保護地に残っているやつらだけ。それでこのありさまだから、夜はもうそれはそれはすさまじいことになっているのだろう。
超時空集落---麓・武家屋敷群

 さてと。昼前になって、姉は出水市内にあるツル博物館「クレインパーク」に行くという。でも僕はもうツルはお腹いっぱい。というわけで別行動となった。
 僕は出水の中心街(本町)近くの「麓」という集落へ。ここは江戸時代のままの街並みが保存され、武家屋敷群がうじゃうじゃっと残っているところ。本町の商店街から10メートルほど上がった台地になっている。

  
 (左)麓集落と下の本町とを隔てる石垣。左上が麓  (右)本町・・・空洞化してます

 2時間ほど歩き回った。新しい住宅はほとんどない。これだけの規模で昔の集落全体がまとまってすっぽり残っているのはめずらしい。観光地化もまったくされていない。
 ちょっと歩いただけで、「むっ、こいつはタダ者じゃないな」というような、なんともいえない独特の雰囲気が街全体に濃厚に漂っている。
 道路が舗装されていなければタイムスリップまちがいなしの異空間だ。

  
 (左)武家屋敷の街並み。「馬場」と呼ばれる通りが碁盤状に走る  (右)竹添邸は内部も公開

  
 竹添邸内部、築後約150年。10年ほど前まで住んでおられたそうな

  
 (左)上級武家・税所邸の門  (右)どう見ても数百年前の街角

 武家屋敷だけじゃない。ここにある出水小学校の校門は「御仮屋門」がそのまま使われているし、保育所までが下の写真のような調子。とにかくタダ者じゃない。

  
 (左)出水小学校の校門  (右)こちらは出水保育園  どちらも平民の子でもOK

 なんとも味わい深い場所でござった。夏にはまた異なる雰囲気があるのだろう。

 2時に再び姉と合流し、一路、人吉へ向かう。
 途中、曽木の滝というのがあったので見に行った。「東洋のナイアガラ」と呼ばれているらしい。またまた〜大げさな・・・と思って行ってみると・・・

  

 おぉ! けっこうナイアガラしてるやん。これはちょっとした見ものだった。

 北薩を横断し、栗野インターから高速に乗る。
 道はいったん宮崎県に入って、えびの市を通る。雪をかぶった霧島が美しかった。

  えびのPAから見た霧島

 以上で北薩の旅は終わり。県境の長いトンネルを抜けたらいよいよ僕のあこがれの街、熊本県人吉市だ。

               (引き続き、人吉編はこちら
ちょっとした旅ホーム