ちょっとした旅ホーム
越前大野・聖なる名水郷



(福井県大野市)
2004.8.11〜12
 福井県受難の夏である。
 大雨で福井市内が水びたしになりJR越美北線が寸断されたと思ったら、若狭の原発事故で5人死亡。山も海もわやくちゃ。きっと旅館や観光業者は風評被害で商売あがったりだろう。
 そういうときこそ僕の出番なわけだ(・・・?)。
 青春18きっぷを携え、ズタズタになったJR越美北線の代行バスにわざわざ乗って、奥越前の名水郷を訪ねた。


 青春18きっぷを使って新快速&鈍行、福井に着いたらちょうど昼。そっからはJR越美北線の代行バスに乗って越前大野を目指す。
 代行バスは何度も踏み切りを越えながら、線路に忠実に走る。線路は荒れ狂った足羽川に沿って続いており、何ヵ所かで鉄橋が落ちているのがよく見える。赤字ローカル線がこんなにぼろぼろになったんじゃあ復旧は厳しいかもな。

 1時間ほどで越前大野駅に到着。新しくて立派な駅じゃないの。

  えちぜんおおの駅

 しかしまー腹ペコだ。福井といえば、おろしそば。福井のおろしそばを初めて食ったのは約10年前、福井市内の「しゃく谷そば」という店だった。あまりのうまさに感激し、数年後にまた訪ねたことがある。今回もうまいそばを食うのが楽しみの一つだった。
 で、そば屋を求めて、大野城のそびえる亀山方面へ歩く。
 メインストリートの六軒通から少し北へ入ったところに、いきなり銭湯発見。なかなか味わいのある木造建築だが、残念ながら廃業しているようす。
 その近くに「福そば本店」を見つけて飛び込む。フンパツして、4種類のそばを楽しめる「お好みセット」(だったかな?)を注文。ちょっと平たいそば。うまいですよそりゃあ。腹も減ってたし。

  
 (左)廃業銭湯  (右)4種類のそば

 腹もふくれて、ぶらぶら歩く。
 大野の道はだいたい碁盤状になっており、東西の六軒通・七軒通・八軒通、南北の一番通〜五番通あたりが旧市街の中心部。古い建物がよく残っている。
 一番通を北上すると、「改盛湯」発見。暖簾の向こうにまた暖簾、戸は開けっ放しで、表通りから脱衣場までお見通し。すごい開放度だ。自動車で乗り付ける客もあり、なかなかの人気銭湯っぽい。かなりそそられたが、大野へ来たばっかりだし、もうちょい歩くか。

  
 (左)改盛湯全景  (右)木の看板しぶい

  小屋根のすそにはえべっさんの2色鬼瓦

 そこからほんの5分ほど、亀山のふもとに「亀山湯」発見。先の2軒と外観はよく似ているが、こちらは場所柄か、ぐっと静かで落ち着いた印象だ。

   亀山湯、構えは改盛湯と似てる

 さて、大野といえば名水の里として有名。そのシンボルともいえるのが「御清水」だ。「おしょうず」と読む。
 亀山湯から南へ10分ほど、上品で落ち着いたまちなみの中に突然現れた。美しいです。冷たいです。最高です。

  大野のまちの宝物

向こうの端で湧水し、
流れに従って飲用→野菜洗い→洗濯→遊び場と
利用区域が決まっている

  
 (左)おもにここからじゃんじゃん湧き出ている  (右)ただただ美しい。ヨコエビ生息

 足を浸けるとすぐにジーンと痛くなるような冷たさ。手を洗い、顔を洗い、頭からかぶり、うがいし、そしてゴクゴク飲む。
 まろまろぉい水である。口の内部にしみこんでゆくような。いやー、コリャ最高。いつまでもここでウダウダ過ごしたいねえ。たかが水やけどなあ。このへんの人はこんなのが家の前にあるとは、なんと贅沢なことだらふ。

 この御清水のそぐそばに「大清水」という旅館がある。今日の宿はここ。情報によると素泊まり3000円とあった。外観は、まあなんと申しましょうか商売気ゼロと申しましょうか死んでると申しましょうか。

 入口どこやねん

 狭い路地のような玄関で呼ぶと、腰の低いばあさんが出てきた。2階へ案内される。おやっ、外見の割にこぎれい、しかも2間続きで広い部屋だ。改装して間がないような。これはヒット。ええ風も入ってくる。

 とりあえず荷物を置き、さっそくタオルとせっけんと財布だけ持って銭湯&飲みへ出発だ。
 御清水から南東へ徒歩数分、かねて狙っていた東湯に到着。ぬおー、これはこれは渋い建物。ガラス窓などに、見たことのない細工が施されている。
 さっそく入ると、中も最高。お湯も最高だったが、何より特筆すべきはカランの水。カランの水をガブガブ飲みたくなったのは、俺の銭湯史上、はじめてのことだ。恐るべし名水の里!
 ともかく、いきなりの感激剛速球。東湯の詳細こちら

 
(左)「大野らしい伝統建築物」にも選ばれている東湯  (右)湯上がりのひなびた街並み

 さて、風呂に満足したら次は飲み屋探索。とりあえず中心地の六軒通周辺に戻るが・・・ない。
 ない。ないないないないのない!
 そば屋以外に店がない。居酒屋というものが1軒しかない!

 仕方ないのでその1軒、「いふり」というミョーな名の居酒屋に入る。中はフツーに居酒屋だが、地ものは、と・・・ナヌ? 鮎の塩焼き1000円?
 「これは何匹で1000円ですか?」
 「1匹です」
 それでも他に店がないため、お客はそこそこ入っている。誰かこの町に市場経済の競争原理を持ち込んでくれないか!
 カウンターで隣に座ったオヤジは、息子夫婦を頼って大阪から今年移住してきたという。
 「大野はとにかく飲み屋がないからねぇ。仕事は見つけたよ。でも給料は大阪の3分の1やわ」
 3分の1の給料で1匹1000円の鮎を食わされたんじゃたまらない。地方はかくして過疎化が進んでいくわけか。

 しょぼいツマミを2品ほど頼んだだけで早々に出る。さらに街中を徘徊して飲み屋を探すが、しかばねのようなスナックがポツーン、ポツーンとあるのみ。どこをどう歩いても静かなまちなみ、ゴミのひとつも落ちていない。
 御清水のように清らかなまちである。
 美しいが、俺はここには住めそうにないな。
 六軒通りの酒屋に行って閉店時刻を確認すると9時だという。仕方がないので、それまでもっぺん風呂にでも入るか。
 昼間に見つけた亀山湯で再度の極楽。とにかくここも水が最高だわ。亀山湯の詳細こちら

 湯上がり9時、さっきの酒屋へ駆け込む。酒屋のオヤジ、人の良さ爆発系。地元のナントカいう銘柄の日本酒を少し利き酒させてくれたが、これがまた超スッキリ系、まさに御清水と同じ舌触りで激うまい。ほしかったが、一升瓶抱えて旅するわけにも・・・残念。ビールと安物のマズイ冷酒300ml瓶を買って、宿に帰って飲んだ。


 2日目

 宿に荷物を置いたまま散歩。さきに宿代を払ったが、3000円と聞いていたのに、なんかしらんが2500円でいいという。ちょっと安すぎるんじゃないの、ばあさん?
 宿から徒歩数分、織田信長に敗れて大野で切腹した朝倉義景の墓のそばに、イトヨの生息する湧水池がある。その近くに水琴窟があり、その横にまた湧水。
 朝から清らかな湧き水を飲み、水琴窟の妙なる調べに耳を澄ませながら過ごすひととき。
 いやまあしかし何というか、風雅な里じゃのお。

  
 (左)イトヨの住む池  (右)ここにも湧き水


 朝市をやってる七軒通りから、寺町通りへ。ますますもって静寂。田舎町ではあるが、じっくり落ち着き払った風情には気品すら感じられる。

  
 (左)七軒通り  (右)寺町通り

  
 (左)寺町のとある寺で、鐘楼の木彫り装飾  (右)さらに寺町通り

  
 (左)アサガオを愛する寺  (右)珍しく寄棟造りの古い寺。かなり痛んでいる

 福井からの代行バスに乗っていたときから思っていたが、この地方では新築の家でも、ごく普通に伝統的な建築様式の家屋が建てられているようだ。「まちの景観づくり」のためにそうしている感じではない。家を建てる=このスタイルっぽい。
 震災後、家の建て方が一変してしまった神戸から来ると、これがとても新鮮だ。

  
 (左)この地方の典型的な古い家  (右)建築中の家

  新築の家  基本構造や外観はあまり変わらない

 でも俺って、銭湯めぐりにハマってからというもの、いつのまにやら建築評論家みたいになってるな。建築のことなんかナーンモわかってないんだが。
 寺町からまちの北部、商店の看板などを見ながらブーラブラ。最近、古い看板にもひかれる俺がいる。こういうのをノスタルジジイというのだろうな。いやーやめてくれ、俺をそんなふうに呼ばないで、頼む!

  惣菜屋

   豆腐屋

  
 酒蔵会社も木彫りの看板


 大野市の西、小高い亀山に登る。頂上には大野城がそびえ立っている。コンクリ造りの再建天守だが、眺めはたいへんよろしい。風が意外なほど涼しい。

  
 (左)大野城  (右)天守閣からは大野市街を一望できる

  
 (左)七軒通りあたり  (右)天守閣から見る日本百名山の一つ、荒島岳

 亀山から降り、そばを食ってビールを飲んでから、内部公開の武家屋敷「旧内山邸」を見学。古い木造家屋は真夏でもひんやりしている。誰もいない2階部分で寝そべったら、しばらく本当に眠り込んでしまった。

  旧内山邸

 目が覚めたらもう2時近い。御清水でまた顔や頭や足を洗ってから、夕べの宿へ荷物を取りに行く。「それじゃ」と玄関を出つつフト振り返ると、ばあさん土下座して「ありがとうございました」と板の間に頭をこすりつけている。
 2000円や3000円の素泊まりで土下座である。俺を高僧か何かと間違えてるんじゃないか。
 それにしてもこのばあさんといい、夕べの酒屋のオヤジといい、御清水会館でバス便を調べてくれたオヤジといい、みなさんとにかく馬鹿丁寧、やたらと親切。

 というわけで越前大野。
 水は限りなく清く、まちなみは潔癖なまでに整い、人は土下座級に謙虚。いかがわしい部分をまるで発見できなかった。なんせ飲み屋より銭湯の数のほうが多いんだから。そんなことで世の中を渡っていけるのか〜っと心配になる、聖なるまちだった。

 六軒通りからバスに乗る。次は隣の勝山市へ。

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