ちょっとした旅ホーム
二つの古い顔



(和歌山県海南市)
2005.9.9
 海南が渋いとのウワサ。しかも街の規模のわりに銭湯がたくさん残っているようだ。で、1枚残った夏の青春18きっぷで日帰りプチ旅行に出かけた。

 (でも、その後これをまとめるまでに半年以上が経過した。早くも記憶が怪しいが、とりあえず憶えている範囲で。06.3.21)

黒江

 JRで和歌山へ。御坊行きに乗り換えて4つ目が海南だが、その一つ手前の黒江で下りた。ここには、かつて塗りもので栄えた古いまちなみが残っているらしい。
 黒江駅から西へ、道幅の割りに交通量の多い道を歩いてゆくと、10分ほどで周囲の雰囲気が古めかしくなってくる。このへんが昔の黒江だな。少し路地に入ると、イニシエの香りが濃厚にむーんと漂う。

 
(左)黒江の路地裏   (右)城山中腹から見た黒江のまち

 細い裏通りを歩いていて、いきなり渋い廃業銭湯発見。向かいのばあさんが外に出ていたので聞くと、もう廃業して10年以上になるという。
 「これは残ってますけど、このへんも古い建物はどんどん壊してまっせ」とのことだ。

 裏通りの廃業銭湯

  
(左)日乃出湯か・・・入りたかったなあ   (中)モダンな装飾がある   (右)日乃出湯跡のある狭い通り

 「のこぎり歯状の家並み」が黒江独特の風景らしい。道路に対して家が少しずつナナメに建てられていることをいうようだが、さほどたくさん残っているわけでもない。またそれ自体、べつに大した景観を作っているわけでもなく、これと指されて「ああそういえば」と気づく程度のもの。
 そもそも黒江には、京都や奈良のように伝統的な建築物が並んでいるわけではない。この町はもっと庶民的で、しかも南国で海に近い分、京都や奈良にない脱力系の明るさがある。

 折れたり曲がったりしながらさらに西へ行くと、ひなびた小さな市場に出る。船尾市場とあるが・・・これまた味がおまんなあ。なんとなく戦後っぽい。

 
(左)船尾市場

 市場を過ぎると、現役の銭湯「大正湯」が現われる。まだ営業時間前だが、いい感じだ。

 
(左)大正湯、玄関部分は改装されている   (右)大正湯の並び

 このあたりはもう町の外れだ。取って返してしばらく東へ戻り、黒江の中心部にある「紀州漆器伝統産業会館」で高級漆器を見学して一休み。
 その近くの裏道に「黒江ぬりもの館」というのがあったのでそこにも入る。こちらは伝統産業会館と違って小さな町屋を改装してあり、手ごろな漆器がいろいろある。かわいらしいスプーンなどがあったので、子どものおみやげに買った。

 
(左)黒江ぬりもの館   (右)なぜか豆も販売。昔ながらのマスによる量り売り

銭湯の聖地

 城山の中腹に上って黒江を眺めてから、南へ向きを変え、海南の中心部へ。このあたりに集まっている銭湯を順に見ていくとするか。
 城山の南側にまわり込んで細い路地をぐにゃぐにゃ歩くと、まず「宝湯」発見。モルタル玄関の奥で、まだ2時なのにもう暖簾がかかっているぞ。屋号がローマ字で書かれているのが珍しい。
 その少し南に「はまゆう」発見。屋号も銭湯とは思えないが、場所もまたわかりにくいな。アパート下のトンネル通路の奥。

 
(左)早い時間からやっている宝湯   (右)はまゆうはこの奥

 さらに南、中心部の幹線道路に出て、海南のレトロ銭湯でもっとも有名な「新町湯」発見。ゲロ渋の洋館だ。

 新町湯

 日方川の北側に戻って少し東、このへんも狭い道だが、壮絶に渋い和風銭湯の「加島湯」発見! と思ったら、ナヌ? なにやら張り紙が・・・え〜っ、1ヵ月前に廃業したってぇ!
 向かいの肉店のおばさんに廃業理由を教えてもらったが、何だったか忘れてしまった。おばさんは、「ええお湯やったけどねえ」と惜しんでおられた。

 
(左)廃業した加島湯の側面   (右)加島湯正面、非常に残念

 銭湯を探す町歩きは楽しいが、どこでもたいてい厳しい現実を突きつけられるのがつらいところ。ディープ銭湯の宝庫といわれる海南でもやはり同じだった。合掌。

熊野古道

 駅前で冷麺を食ってから、今度は駅から南の熊野古道方面へ。

 駅前から続く中心商店街、昼間っから閑散

 正面に大野山の連なりを見ながら、古い街道をゆく。青空に白い雲、最高のお散歩日和だ。
 こっちのほうが黒江よりも古い町並みがよく残っていて、ならまちっぽい感じ。
 しばらく歩くと「内海湯」発見。ここももう暖簾がかかっている。

 
(左)内海湯、改装済み   (右)南へと続く熊野街道 (ページ冒頭の写真も)

 
(左)古いねえ   (右)こんな造り酒屋もある

 やがてまちなみが切れて山と海が接近するあたりに、またもや銭湯登場。これはかなりのヒナビた味わい(あとで調べたら「むらさき湯」)。やってるんだろうか。

 田舎風情よし

 JR線路下をくぐって階段を上がると、藤白神社に着く。なかなか立派な神社だ。熊野詣での一の鳥居であり、ここから熊野の霊域が始まるとされる。
 主祭神はニギハヤヒ。神武天皇が九州から来る前にヤマトを治めていた王だが、ここでは「鈴木」姓の祖先として祀られている。なんと、全国最多200万人の「鈴木」さんのルーツはここなんだと。藤白神社境内にある元祖・鈴木家は122代続いているらしい。
 俺もこれまでの人生で何人もの鈴木さんに会ってきたが、みんなニギハヤヒの子孫だったとは。

 鈴木家のルーツ、藤白神社

 藤白神社から阪和自動車道の高架下をくぐると上り坂となり、有間皇子の墓がある。
 有間皇子は657年、白浜温泉で遊んだ帰り、この先の藤白坂で謀反の罪を着せられて絞殺された。当時18歳、悲劇の人だ。有間皇子を陥れたのは暗殺大王こと中大兄皇子(天智天皇)。この人は本当に恐ろしい人ですな。
 まあ有間皇子もアリマでありながら白浜なんか行くから・・・。

 やがて山道となる。このへんが藤白坂だな。登るにしたがって海南の町が見えてくる。

 
(左)藤白坂を登る   (右)やがて海南市の中心部が見えてくる

 
(左)さらに細くなる山道を登ってゆくと・・・   (右)海南市西部の工業地帯が見える

 海南の臨海コンビナート

 この日は暑かったので、すでに汗びっしょり。しかもGパンで来たので山歩きは辛い。このへんで引き返そう。
 来た道を戻ると、さっきのむらさき湯に暖簾がかかっている。ああ銭湯、ちょうど4時か。吸い込まれるように中へ入り、一番風呂で極楽のひとときを味わいまくる。むらさき湯のレポートこちら

 湯上がりさっぱり。しかもまだ日は高い。残りの銭湯も見とこか。
 海南駅に出て、駅の東側に芦原温泉を発見。ここもまた渋いなあ。(この半年後に入った芦原温泉のレポートこちら)。
 そして駅の北側、柿本神社の近くにある宮前湯、改装されているが定休日だった。

 
(左)芦原温泉   (右)宮前湯

 銭湯はあと1軒あるはずだが、もう体がビールを求めて仕方ないので、駅前商店街の近くの魚系居酒屋へ。このあたり、とくに隣の有田市の箕島港はタチウオの水揚げナンバー1なんだな。
 で、タチウオ食ってビール。かはーっ、しみるしみるしみる!

 タチウオ、小骨があるけど最高

 店を出たらもうすっかり夜。さらにそのへんをブラブラ散歩して、帰りぎわにもうひとっ風呂、激レトロな新町湯でシメた。強烈や。新町湯のレポートこちら

 海南はコンパクトな町だが、黒江周辺と熊野古道とで異なる顔を見せてくれる。半日〜1日のお散歩にはちょうどいいね。漆器または銭湯に興味のある人なら倍楽しめるだろう。
 そんな、ある休日。

 おしまい。
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