ふしぎ山
辺戸御嶽(辺戸岳)
へど うたき 沖縄県国頭村、248.3m


 寒い本州を脱出して沖縄に来たのはいいけれど、なんやしらん雨ばっかり降りやがって。
 でもじっとしてるのももったいないし、そのうち上がることを期待して長距離移動だ。どうせなら沖縄本島の最北端・辺戸岬を目指してやる。

 赤い印が辺戸(へど)岬

 沖縄は小さな島だが、南北むやみに長っぽそくて、北端のヘドちゃんはさすがに遠い。那覇から路線バスで行く場合、3本乗り継いで3時間以上かかる。

 それにしてもこの雨は1日中続くんかいな〜と思いながら辺戸岬へと近づくにつれ、なにやら前方に怪しい山が見えてきたぞ!

 
(左)やんばる西海岸、雨にけぶる辺戸岬の方角に・・・  (右)雨があがってきた。平戸の礫岩を髣髴とさせる姿

 「武見」バス停付近から

 やんばるの森から突き出したブキミな岩塔。これが辺戸御嶽のようだ。
 御嶽(うたき)とは沖縄の聖地のことを言う。伊江島の城山もそうだったけど、中でもこの辺戸御嶽は沖縄開闢神アマミキヨ(アマミク)が久高島に降臨したのち、最初に創造した第一の聖地ちゅーことらしい。

 国道はこの山の西をまわり込んで、最北端の辺戸岬に至る。風きつく波荒く、そこいらじゅうに奇妙な石灰岩がゴロゴロ。最果て感たっぷりな岬だ。
 振り返ると、真南に辺戸御嶽が奇怪な姿で聳えている。さっき遠くから見ていた姿の反対側になるが、全然違うぞ。
 200mちょっとの低い山だが、この最北端で強烈な海風をさえぎっている姿は、なんとも神々しい。
 ふとジュラシック・パークを思い出した。

 辺戸岬から。南から見えた岩塔(主峰)は左端ピーク

 かつて薩摩から荒海を越え、島々をたどって南海を目指した船乗りたちが、最初に目にする「琉球」がこの山だったろう。
 辺戸御嶽は、琉球王国の玄関を見下ろして睨みをきかすシーサーであると言ってもいいかもしれん。

 辺戸岬と辺戸集落の間あたりから

 国道は岬の手前でUターンし、辺戸御嶽をぐるりと1周するようなかたちで東側にまわりこむ。辺戸岬の南約2kmほどのところ、ちょうど御嶽の真東に、辺戸の小集落がある。

 赤いピンが登り口

 辺戸バス停から100mほど南に交差点あり。左は辺戸集落内、右は石林山公園。ここからは屏風を広げたような御嶽東面の断崖の全貌が見渡せる。
 大きなピークが3つあるうち、左端が三角点のある主峰のようだ。

 交差点のさらに100mほど南に、右手へ鋭角に切れ込む小さな坂道があった。何の表示もないけど、どこかのブログで見た写真にそっくりだ。たぶんここが辺戸御嶽の登り口だな。

 
(左)「辺戸」バス停のすぐ南、石林山公園への道との分岐から  (右)この坂を上がる

 雨はまだ若干パラパラしているが、さっきまでに比べるとずいぶんマシだ。御嶽の神が「登れ」とおっしゃっているに違いない。
 坂を上がるとすぐに舗装が切れて大きくカーブ。突き当りを右へ登ると、どえらく古ぼけて破損しまくりの立て看板がある。

 
(左)なにやら古ぼけた立て看板あり  (右「この御天軸は神々の大聖地・・・」とある

 大聖地だから汚すなよと。ようするにここから登るんだな。
 森の中の小道を行くと、聖地を示す表示がいくつか現れる。

  
(左)ようわからんが「拝所を美しく」というような意味ね  (右)黄金山、とある

 ここから一気にガレ場の急登となる。
 ルートの両脇にはロープがしっかり張られていて迷う心配はないが、足元は岩ゴロゴロの隙間に木の根がびっしり、それが雨で濡れているために歩きにくい。しかも俺が履いているのは裏ツルツルでペランペランのスニーカーやし。

 登山路は終始ロープに導かれる

 それでも傾斜が急なため、効率的にぐんぐん高度が上がっていく。主峰に向かって断崖を正面から攻めて行く感じ。
 15分ほど上がったところに、神様がこっそり昼寝する寝床のような洞窟があった。

 
(左)洞窟だ  (右)小さな石が祀られている

 やがて、このルート唯一の鎖場が現れた。傾斜は急だが手がかりは多く、さして危険はない。
 そこを上りきると尾根に出た。どうやら主峰とその北側ピークとの鞍部に出たらしい。
 雨はもう完全にあがっているぞ。

 
(左)尾根に出る手前の急登  (右)北の尾根にも踏み分けあり

 南の主峰方面へ明瞭な踏み跡がある。逆に北側ピーク方面の尾根上にも踏み分けがある。さらに、鞍部を乗り越して西へ下りてゆく方面にも踏み分けが見える。
 この場所はそれらの結節点になっているらしい。

 
(左)主峰へは尾根を南へ  (右)あれが頂上だな

 乾燥した岩場にはソテツが茂っている。その合間を歩き、尾根に出てからわずかな登りで頂上に達した。登山口からでも30分経っていないかもしれん。
 とたんに、360度の広大な眺望が広がった。

 着いた

 来た道を振り返って、思わず「おお!」と声が出た。
 見る角度によって姿を変えていた辺戸御嶽の奇妙な全貌がここでついに明らかになった。


北に連なる峰々と西側の窪地。空からの落下物をすくい取る手のひらのようだ

 北と東と南は断崖で切れ落ちているが、西側はまるで浅いスプーンのように窪みながら、ゆるやかに傾斜している。短い指のついた手のひらを空に向かって広げ、なにかを受け止めようとしているみたいにも見える。

 この地形を見て、昔の人はこの手のひらこそが神の降り立った場所に違いない、と感じたのではあるまいか。

 目を東へ転じると、さっきいた辺戸岬と辺戸の小さな集落が断崖ごしに見下ろせる。辺戸岬の彼方には与論島が浮かんでいる。
 南には国道の走る海岸線と、おだやかに起伏するやんばるの森が広がっている。
 西には伊平屋島と伊是名島がうっすらと見える。

 
(左)辺戸岬と辺戸集落  (右)本島西岸の海岸線とヤンバルの森

 頂上は5〜6人がゆっくり滞在できる広さがあり、コンクリ造りの祠が3つある。

 
(左)難しい日本語  (右)真北を望む。うっすら与論島が見える

 
(左)渋いタイル張りの祠  (右)ようわからんが「大宇宙」の「性子」の神様が祀られている

 聖地に咲く花

 大海に浮かぶ沖縄島の切っ先にそそり立つ、奇怪な山。
 そのてっぺんから臨む海の広さと、小舟のように点在する陸地の小ささ、そしてそこに依拠する人間のちっぽけさ、心もとなさよ。

 遠くの島々までを見はるかすこの場所を神に近い聖地と信じ、大事にしてきたシマンチュたちの切実な思いがしみじみと感じられる。

 雨が再び降り出さないうちに、同じ道を下った。
 いずれ北側の尾根と、手のひらへ下りて行くルートも歩いてみたい。  (登:10.2.16)
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