ふしぎ山
鹿岳 かなだけ
群馬県甘楽郡下仁田町/南牧村、1015m


 それにしても、やっぱりこの山だ。気になってしようがない。
 下仁田駅から見てもギョッとするし。なんだよこれ、ボコッボコッて。

 
(左)朝の下仁田駅ホームから、右は四ツ又山    (右)ボコボコ拡大

 鹿岳と書いて「かなだけ」と読ませるのも人をおちょくっている。漢字やん! ようし、そっちがそうくるならおれにもかんがえがあるぞ、こんかいのレポートはかんじをつかわずにぜんぶかなだけでかいてやる。

 ・・・やめとこう、読みにくい。
 とにかく、こいつが今回の旅のメインターゲットだ。

 鍬柄岳から降りて下仁田へ戻り、10時の南牧バスに乗る。西上州の核心部・南牧村へ入って「小沢橋」で下車。下仁田から13分。
 南牧川にかかる橋を渡って左へ進むと、支流の大塩沢川に沿った道になる。

 この時間になるとさすがに暑くなってきた。すでに一つ登ってるから汗まみれ、しかもヤブ漕ぎのせいで白いシャツが茶色く汚れている。
 そんなキタナイ俺とは対照的に、さっきから流れている南牧川や大塩沢川の美しいこと。上から覗いても鮎やヤマメがビュンビュン泳いでいるのが見える。俺も泳ぎたい!

 
(左)小沢橋から見た南牧川    (右)大久保集落あたりの大塩沢川

 しかし今から泳いでいては疲れて山に登れなくなる。ここはガマンだ。そして早めに下山して、ベットベトのグッチャグチャになった体でザブーンと飛び込んでやるのだ。
 わざわざこのクソ暑い夏に登っている以上、夏の低山だけに許された水浴びという特権を行使せずにおくものか。

 川を覗きながら歩き、数軒の民家が集まったところにさしかかると、いきなり進行方向の山あいに異様な岩峰が現われる。
 うっひゃ〜、まあ写真で見てはいたが、あれ、なんじゃあれ。カシューナッツを地面に突き刺したっちゅーか・・・。
 それで今からあのてっぺんに行くんですって? はははははは。

 
(左)はるかにそそる変な山    (右)拡大、ガリッとかじってやろうか

 鹿岳は2つのピークに別れている。手前のカシューナッツみたいなのが1峰、奥の四角いのが2峰。ここからだと1峰が高く見えるが、じつは2峰のほうが高いらしい。

 このあとカーブを曲がると、もう山は見えなくなった。登山口までずっと見えない。
 ということは、こういうふうにこの山を眺められるのは、この数軒の集落だけ。ここに住むわずかな人々だけが、朝な夕なにこの奇怪な山を見上げて暮らしておられるわけね。
 なんという強烈なフルサトなんだここは。

 小沢橋から45分ほどで下高原集落にさしかかり、最初の1軒家の向かいに登山口の標識がある。ここから1峰と2峰のコルを目指す。

 
(左)登山口    (右)登山道

 登山道は終始、植林帯の中。赤テープが要所にあって迷う心配はない。最初は沢沿いに登るがやがて左の山腹を巻き、再び沢に出る。
 森の中は無風で蒸し暑い。ミンミンゼミも鳴いている。沢に近づくたびに冷たい水をすくって飲み、タオルを絞り、顔を洗い、頭を洗い、帽子に溜めてそのままかぶる。
 とはいえ、暑さそのものは西日本の低山よりマシだ。クモの巣やコアブもたいしたことない。

 しかし沢を離れて急斜面をジグザグに登り、植林帯も切れて、もうそろそろコルだろう、と思ってからがけっこう長い。うへー、ちょっとバテてきた。そういや早朝からすでに5時間ほど歩いてるもんなあ。せめて風でも吹いてくれ・・・。

 登山口から1時間、ようやく前方に空が見えた。最後はロープをたぐって一登り。
 コルに顔を出した瞬間、まったくふいに天使が舞い降りて、汗まみれの俺の頬から首筋にフゥーっと息を・・・と錯覚するほどの涼しい風が、東側の斜面からサワワーっと吹き付けてきた。
 ナミダが出るほど気持ちがエエ。どうやらここは風の通り道のようだ。神様ありがとう。

 頂上も近いけど、もうガマンできん。リュックを投げ出して狭い尾根にへたりこみ、梅おにぎりを食ってお茶を飲む。時刻はちょうど正午だ。サワサワの風が、風が・・・感動的!

 
(左)ついにコルへ!    (右)コル付近の稜線は幅1メートル余しかない

 
(左)風が吹いてくる東のほうを見たら・・・おや、あれは?   (右)おお、風の主は鍬柄様でしたか・・・感謝です!

 しかしそうゆっくりもしてられん、帰りのバス便と夕立(このところ毎日)のことを考えると、ゆっくりしてたら川で遊べなくなっちゃう。
 一息入れて、まずはカシューナッツの1峰へ。木のハシゴを登り、岩場を伝う。下から見上げた岩壁の裏側を登るかたち。
 数分でポンと頂稜に出た。頂点は小さな岩の丘になっており、てっぺんに祠がある。
 頂上岩には腰を下ろすスペースがなく、失礼とは思いながらも祠に尻を乗せて周囲を見渡す。南側は遮るもののない大展望。北側には灌木が茂っていて展望はない。

 
(左)もう咲き始めたハギの花と、頂上の祠    (右)山を下から見上げた塩沢集落を今度は逆に見下ろす

 
(左)登山口やや上流の下高原集落、かな   (右)はるかなるあの山は・・・烏帽子岳? それとも大岩・碧岩 ?

 
(左)下仁田・富岡方面    (右)次は四角い2峰へ

 頂上には風はなく、日射がきつくて長居はできない。
 いったんコルへ戻ると、また素敵な風が吹いている。いやーここは最高だな、もう少し広ければ寝転びたいけど、通路幅しかないから寝返りを打つと下へ落ちる。

 で、そのまま2峰へ。リュックは置いて行く。岩場でスリルがあると聞いたが、途中のハシゴも鎖場もさして危険はなく、難なく10分たらずで2峰頂上に到着。こちらはやや広くて10人近く滞在可能だ。誰もおらんけど。
 ここも風はなく日射がきつい。だが1峰とは逆に、北から西にかけての大展望が得られる。すごいぞ、西上州のふしぎ山オンパレードだ。

 
(左)2峰へ、このハシゴがなければ難しそう   (右)振り返ればさっき登った1峰、北面は緑に覆われている

 
(左)2峰頂上の標識    (右)北側の展望、並んでいるよ変な山

 
(左)ぐしゃぐしゃの妙義山、ふしぎ山チャンピオン    (右)ペッタンコの荒船山(うしろ)、ふしぎ山横綱

 ここで、おかかオニギリを食うが・・・げっ、変な味! 腐ってるぞコレ。きのう高崎のコンビニで買ったんだが・・・賞味期限を2日過ぎてる。期限切れを売りやがったな畜生。
 でもさっき梅オニギリは食えた。ここに梅干しの殺菌効果が証明されました。

 なんだかんだで最初にコルに登りついてから1時間が経過した。さて、下りるとしよう。
 コルへ戻ってリュックを背負い、同じ道は面白くないので南東のマメガタ峠へ向かう。
 1峰の岩峰を北から東へ回りこむと、おっと、ここまでまったく見えなかったカシューナッツ岩壁が姿を現した。うーむ、こりゃすごい。

 あとは急な尾根道をどんどん下る。道はやや不鮮明だが、とにかく尾根筋を忠実にたどるのみ。

 
(左)カシューナッツ岸壁、ド迫力    (右)マメガタ峠への尾根道、急傾斜だがさわやか

 早く水浴びしたい一心でいつしかモッチョム下山になっていた。コルから20分たらずでマメガタ峠に着く。
 おっと、ここは草原になっていて気持ちがいいや。ちょっと昼寝でも・・・いやいや、川が待っている。あーもう、いつもながらなんでこうやりたいことが目白押しなんや。

 マメガタ峠、昼寝に最高の場所

 心にムチを打って南へ谷を下る。やがて水流が現れ、下るほどに水量が増える。沢に寄るたびに冷たい水を飲んだりかぶったり。

 そのうち小滝が連続するようになり、泳ぐほどではないが銭湯の湯舟くらいの広さになっている場所が随所に見られるようになる。そこでもうガマンできず、パンツ一丁になってついに川に飛び込んだ。
 ら、じ、じべだい〜! 3秒で足じんじん。それでも川に腹這いに浮かんで頭から滝水をかぶる。うひぇ〜、あひょお〜!

 こんなところで冷水修行

 川遊びというより、水ごり以外の何ものでもない。それでも全身スッキリ、ついでにタオルも下着もみな洗濯して、生まれ変わってさあ帰ろう。
 マメガタ峠を出て50分後に大久保集落に到着。ここで往路と合流し、30分歩いて小沢橋バス停に帰りついた。

 バス停前の商店でビールを買い、南牧川の友釣りを眺めながら3時すぎのバスを待つ。
 次回はシュノーケル持参で、川遊びに半日当ててもいいな。などといつも思いながら、いつもガツガツした予定を立ててしまう俺であった。

 というわけで鹿岳は見た目おそろしそうだが、たいした難所もなく、じっと我慢で植林帯を登らされる山だった。夏場は下高原の登山口から登るより、マメガタ峠経由のほうが沢あり尾根ありで楽しいかも。  (06.8.25)

 「鹿岳」という地酒があるもよう(小沢橋の商店にて)
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