ふしぎ山
子檀嶺岳 こまゆみだけ
長野県小県郡青木村、1223m


 日本の屋根・日本アルプスが居並ぶ信州に来たというのに、それらを無視してわざわざマイナーな低山を目指す変なオッサン、それが俺様だ。
 最近はふしぎ山ファンが増えてきたのか、俺の変態山歩きへの同行を希望する人がたまにいる。で、いつもなら路線バスを乗り継いで麓から延々歩くところを、今回は友人Hの運転するレンタカーでスイスイアプローチだ。ほんまに車ってらくちんじゃのぉ。

 鹿教湯温泉から峠を越え、青木村に入る。と前方に、「ゾウを飲み込んだウワバミ」みたいな形の山が見えてくる。

 
(左)サンテグジュペリなシルエット   (右)沓掛温泉付近から拡大、右側に岩壁が見える

 なかなか印象的な形ではあるけど、驚くほどではない。だがこの山の実力は、東側にまわりこんだときに発揮される。
 青木村役場前で国道143号線に出て上田方面へ東進し、大法寺(なぜかここに国宝の三重塔がある)への道で左折し、Uターンするようなかたちで阿鳥川の上流、当郷管社集落へ向かう。

 それにつれて山の形が、あれよあれよという間にどんどん妙なことになってくる。プリンのカップをパコッと置いたみたいになってきたけど・・・なにこれ、どういうことぉ〜!?

 
(左)国道143から。堂々たるドーム型   (右)国道を離れると、野沢菜畑の向こうに・・・

 
(左)あの上はどうなってるの?・・・やっぱり円形か?   (右)登山口

 これは、さっきの「ゾウを飲み込んだウワバミ」を正面から見ていることになるんだろうか。
 最後の民家を過ぎてすぐ右手に駐車スペースがある。そこに車を停め、林道を少し先へ歩くと、登山口を示す立て札がある(右上写真)。

 小さな橋を渡って竹林を抜けると、赤松林の中の急な坂道になる。ちょうど松茸の季節ということもあって、道の脇にはビニールひもが張られ、強い口調で「入山禁止」を告げる真新しい紙がこれでもかとベタベタ貼られている。よっぽど儲かるんだろうなぁ・・・。

 
(左)松林の中の道   (右)そうまで言うなら校正させていただきます、「入山する者」→「立ち入る者」

 張り紙がうるさいので早く赤松帯を抜けたいけど、これが尾根に出てからも20分くらい続いた。
 やがて、ふいに赤松が消え、ヒノキの植林帯に切り替わった。と思ったら、すぐに平坦な未舗装林道に出た。山の反対側から中腹をぐるっと半周している林道のようだ。

 ヒノキ林の中の林道を進むうち、ここがプリンを置いてある皿の位置に当たることがわかってきた。プリンのふちに沿って、北側に周り込んでいるわけね。
 途中で山頂が見えた。この位置からは尖って見える。上は円形じゃないのか、やっぱし・・・。

 プリンに見えたのが正面とすると、これはその右側面

 やがて林道の左手斜面に「子檀嶺岳→」と書かれた立て札があり、そこに細い山道が刻まれている。ここからいよいよプリンの斜面を登るんだな。
 山道はけっこう急坂だ。少し登ると、山道をまたぐ鳥居が現れた。鳥居の正面には「子檀嶺岳」と書かれてある。この山は麓の神社のご神体らしい。
 しかしそういやこの山、妙な名前だが、この字をどう読んだら「こまゆみ」になるのか。

 鳥居

 道は大きく左へカーブし、プリンの裏側にまわっているようだ。
 鳥居から数分でヒノキの植林が消え、天然林に切り替わった。だが木々は細く、伐採後20年といったところ。天気はいいのにまったく陽が当たらない北側の急斜面だ。
 山道はそこをジグザグに何度も切り返しながら登ってゆく。道は完全に落ち葉に覆われていて、ややわかりにくい。
 登るにしたがってブナが増え、木々は少しずつ太くなって、森としての美しさが増してくる。

 
(左)天然林、はじめのうちはこんな森   (右)敷き詰められた落ち葉を踏んで歩く

 
(左)ウリハダカエデの瓜肌   (右)このあたりのブナで樹齢80年くらいかな?

 プリン斜面に取り付いて30分近くたったころ、斜面を登りきって峠に達した。東に短く、西に長い稜線が続いている。
 どうやら、プリン上の東端(麓から見たときの右端)近くに出たようだ。プリンの上は、細長かった。
 頂上はプリン尾根の西端っぽいので、そっちへ稜線を歩く。さっきまで山陰を登ってたので、あたたかな日差しが心地よい。

 
(左)あそこが峠だ   (右)プリン上の稜線を歩く

 話し声とラジオの音が聞こえてきた。頂上に人がいるらしい。
 稜線に出てから5分ほどで頂上に出た。運動不足ぎみの友人Hに合わせたゆっくり歩きで、登山口から1時間15分くらいだった(休憩なし)。

 頂上には中央に3つの祠があり、その周囲は20人ほどが滞在可能な広さの小広場になっている。そこにギッシリと人間がたむろしていた。上田市の中高年17名がシートを広げてわいわいと弁当を食っている。そして出ました、大音量ラジオつけっぱなし。はよどっか行ってくれ〜!
 団体は、西側の田沢地区から登ってきたそうだ。そっちからのほうが距離が短くてラクなんだと。

 でもそんなことより、空は雲ひとつないパーフェクト日本晴れ、そして天下を見下ろす大景観! これは素晴らしい。日本列島が俺を祝福しているぜ。

 
(左)3つの祠  (右)南東、上田方面。手前が登山口の当郷、遠くの山は浅間山

 
(左)南には蓼科山と八ヶ岳が居並ぶ   (右)南西、青木村中心部

 西には北アルプス

 南西方面だけ木が邪魔で見えないが、その他はパーフェクト展望。南は断崖になっている。

 登山ルートは、我々の登った当郷ルート、団体の登った田沢ルートのほかに、青木村役場近くの村松地区からもあるらしい。3つの祠はそれぞれのルートの麓の集落が建てたものかもしれない。
 3つの集落からこの山はそれぞれ違った姿に見えるはずだ。それでも一様に崇拝の対象になっているということは、この山がどこから眺めてもひときわ目立ち、周囲の山々とは別格視されていることを意味する。

 おにぎりを食ったり写真を撮ったりするうちに30分以上経って、ようやくジジババ軍団はもと来た道を下りていった。
 急に静かになった山頂に寝そべって、空を見上げる。生きている幸せ、歩いてここにたどり着けた幸せを、体じゅうで吸収する。

 なんにもない青空がいっぱい

 
(左)石造りの祠、あまりの好天にチョウチョもお出ましだ   (右)帰ってから調べたら「エルタテハ」という名前

 山頂に1時間ほど滞在して、もと来た道を下る。ピストンせざるを得ないのが車移動の残念なところだ。などとエラそうに書きつつ車のラクチンさには勝てないワタシ。
 下りは急坂で落ち葉がすべるので、ゆっくりと下りた。

 
(左)ブナの落ち葉、美しいのぉ   (右)ホウノキ枯れ姿

 妙な名前の子檀嶺岳は、(車さえあれば)手ごろに登れて眺めが大変良い、ゴキゲンな神体山だった。

 ちなみに車がない場合は、上田市からバスで青木村に入り、村営バスに乗り継いで当郷管社方面へ行くことになる。当然のことながらバスの本数は極端に少なく、乗り継ぎも不便だと思われる。
 ま、そうやってたどり着くのも俺は決して嫌いではないんだけど・・・。  (登:07.11.7)

 当郷集落の小さな社から
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