ふしぎ山
鍬柄岳(石尊山) 
くわがらだけ(せきそんさん) 群馬県富岡市、598m

 ついに来たよ、ふしぎ山の聖地・西上州。ここは変な山だらけ。
 しかし、いきなり聖地の心臓部へドカドカ踏み込むのは礼を欠くというもんだ。
 西上州エリアの入り口に、鍬柄岳という小さなふしぎ山が門番のように立っているらしい。まずはこの方にご挨拶だな。

 鍬柄岳へは、上信電鉄の終点・下仁田より1つ手前の「千平(せんだいら)」という駅が近いようだ。でも地図を見た俺の目は、そのもひとつ手前の駅名にクギヅケになった。

 「なんじゃい」だとぉ? なんじゃいその駅名はシバくどオッルァ!

 「南蛇井」という字を書くらしいが、そこからも鍬柄岳に向かう道がある。これは当然、なんじゃいから登るべきだろう。

 早朝5時半すぎ、下仁田から高崎行きに乗る。せっかく前夜遅く到着した登山基地の町に、いきなり背を向けて逆戻りの出発。ちょっと複雑な心境だな・・・。
 5時50分、無人のなんじゃい駅到着。

 

 踏切を渡って北へ進み、小さな橋を渡ったら左折して西へ。このあたりは中沢という集落のようだが、なんとものどかな山里だ。

 
(左)群馬と言えばコンニャク    (右)そしてネギの王様、下仁田ネギ

 川沿いの道をしばらく歩くと、突然、民家の屋根の向こうにニューッと岩峰が顔を出した。出たな鍬柄岳!
 朝日に染まってこの存在感、もう山というよりダイダラボッチだな。

 
(左)なぜかインドネシア的風景    (右)泣ぐ子はいねが〜

 ダイダラ様に見下ろされながら、その懐に少しずつ近寄っていく。しかし気分の高揚に冷水を浴びせかけるように、こんな看板があちこちに掲示されている。

 
(左)こわいよう・・・    (右)全然こわくないよう・・・

 そういやケータイのストラップに小さな鈴がついてたな・・・こんなもん効果があるとは思えないが、せめてもの気休めにそれをぶら下げてチリチリ言わせながら歩く。
 やがて人家が切れると道は植林帯へ入る。何度かヘアピンを曲がると少し開けた場所に出て、正面に鍬柄岳が大きく聳える。

 この角度から見えるのはここが最後

 少し先に「メダカ養魚場」があり、千平から大桁山へ向かう南北の車道に突き当たる。時刻は6時半、南蛇井から40分。
 ここを南の千平方面へ左折し、登山口へ向かう。

 しかし登山口へ向かうのに、どこまで坂を下らせるんじゃいなんじゃいオッルァ、と思った頃、ふいに右側の森が切り開かれた場所に出て、鍬柄岳が顔を覗かせる。
 この角度だと鋭さは失われ、ドングリみたい。どうやら岩峰は南北からペシャッと押しつぶしたように平たいようだ。

 
(左)ちょこんとドングリ    (右)拡大、あそこをどう登る?

 その場所から鍬柄岳に向けて、簡易舗装の作業道みたいなのがついている。道の向かいには車を3台くらい停められるスペースあり。標識はないが、昭文社の地図にも「P3台」とあるから、ここが登山口のようだ。
 いよいよ山へ入る。
 杉林の中を登る簡易舗装をたどるが、そのうちだんだんヤブになってきて、クモの巣との闘いがはじまる。なんかちょっと変だな〜という感じがしないでもないが、ガイド本などには「西上州の山には標識は少なく、ヤブが濃く、夏は虫が多くて、登山適期は春と秋」とある。
 悪いことに、この道はそれらの要素をすべて満たしていた。真夏に登る人もいなければこれくらいヤブが茂るのは普通だよな、などと思いながら45分ほど登り続ける。鍬柄岳はまったく見えない。

 やがて前方に別の山が見えてきた。ははは、どう考えても違うぞこれは。そういや、あるはずのお堂も見当たらなかったな・・・。
 いきなりヤラれた西上州。まあこれも低山徘徊の醍醐味だということにして、とっとと戻ろう、熊も怖いし。俺は下りは早いんだ。「モッチョム下山」と名づけているんだよ。

 
(左)こんなヤブをせっせと登った馬鹿野郎    (右)下っている途中に見えた鍬柄岳の北面

 下山中、送電線の鉄塔へゆく細道があったので、現在地確認のため寄り道。鉄塔のある尾根に出ると、樹木の隙間から鍬柄岳の雄姿が見えた。
 北東面だな。なんとも美しい姿だ。ほれぼれしちゃう。

 
(左)いったん下りて、あそこまで登りなおすのね    (右)拡大、まるで中国の仙山

 45分かけて登ったところを15分で下りて車道に戻ると、山仕事のおじさんがちょうど車を停めたところだった。
 「おはようございます。あの山に登ろうとしたんですが、この道は違うんですね」
 と声をかけると、「登山道はあっちだよ」とおっしゃる。指さされたほうを見たら、あれま、すぐ10メートルほど下に立派な登山口の標識がある・・・。


登山口(左)から北を見る。少し先の、道路が明るくなっているところから左へ入ったマヌケな俺

 「P3台」の場所は間違ってなかった。車で来た場合はここに停車して、10メートルほど車道を下るわけね。トホホ。
 千平から北上してきたら間違えようがないが、南蛇井や大桁山から南下した場合は要注意だな。

 気を取り直して再出発だ。正規の登山道を勢いよく進む。さっきの林業用簡易舗装と打って変わって、こちらはいかにも登山道。すぐに鍬柄大権現の護摩堂が現われる。

 
(左)鍬柄大権現、勢いよすぎてボケました    (右)ダイダラボッチは尊敬されている

 植林帯の斜面をぐんぐん登ると、15分ほどで尾根に出た。それを右に登ってゆくと、まもなく岩峰に突き当たる。
 岩の根に沿って右へ回り込むと鎖場が現われ、ここから急傾斜の岩に取り付く。見た目は厳しいが、鎖が延々と設置されているのでさして危険はない。岩も手がかりがしっかりしている。
 ここまで鎖がフル設置されてしまうと面白み半減かな・・・でも信仰の山だから、お祭りの時には大勢の人が登るのかもしれん。そういう場合は鎖がないと、何人かがダイダラボッチのいけにえになる可能性もあるな。

 
(左)岩峰に突き当たったところ    (右)鎖は山頂部までずっと続く

 岩場10分ほどで、東西に細長い頂稜に出る。南北が切れ落ちて素晴らしい高度感。そのスリルを楽しみながら西端の頂上へ。
 時刻は8時5分、登山口からわずか30分だった。

 さわやかな朝の大気に包まれて立つ山頂は極楽だ。周囲は360度の大展望。東には果てしない関東平野が広がり、西には聖地・西上州のふしぎな山々が居並んでいる。
 来たぞ、西上州!

 
(左)あれが山頂、ポールのようなものが立っている    (右)山頂には片流れの祠がある

 
(左)奥にペッタンコの荒船山、その手前右に物語山とメンベ岩    (右)このあと登る予定の鹿岳

 
(左)登ってきた南蛇井方面。右の山は破風山、遠くにかすむ関東平野    (右)下仁田の盆地を見下ろす

 空中遊泳のような大景観に包まれながら、誰もいない箱庭のような山頂でパンとコーヒーの朝食をとる。なんという贅沢。
 今日はこのあと、西上州を代表するふしぎ山の一つ、鹿岳に登る予定だ。いきなり道を間違えて1時間分の体力を無駄使いしてしまったものの、まだまだ気力十分、待ってろよ鹿岳。

 8時半に山頂を発ち、15分で登山口まで戻った。帰りは千平へ。南蛇井からの道はひなびた山あいの里風景だったが、こっちはやや開けた高原っぽい風景。でも植わっているのはやっぱりコンニャクとネギだ。
 南側から見た鍬柄岳の岩峰は四角く、しかも背後に大きく茫洋とした大桁山が重なって見えるので、南蛇井方面から見たときより異様さや迫力に欠ける。
 この山を眺めるなら東の南蛇井側からだな。

 
(左)千平へ下る道から振り返る    (右)拡大

 20分ちょっとで千平駅に到着。電車を待っていたばあさんが、
 「もう登ってきたの。せきそんさんかえ?」
 と言う。せきそんさん? ああ、石尊山か。鍬柄岳はこのへんではそう呼ばれているようだ。

 すぐに下仁田行きの電車が来た。さて、いよいよ西上州の核心部へ。  (06.8.25)
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