ふしぎ山
御船山 みふねやま
佐賀県武雄市、207.4m



 のどかな佐賀平野を西へ。JR佐世保線が武雄温泉駅に近づくと、ふいに左側の車窓に異様な山が見えてくる。

 家並みの背景としては威圧的

 佐賀平野の西端にニョキッと鋭角に現れるその山はかなり目立つ。武雄のシンボル、御船山だ。
 その名のとおり、南北2つのピークが船首と船尾のようにも見える。高いほうの南ピーク(写真左側)が船首だな。

 武雄温泉駅で降りたが、駅前は建物が邪魔で全体がすっきり見えない。南へ1kmちょっと歩いた山すそに武雄神社がある。南北ピークのちょうど中間直下くらい。
 そのへんにいたおじさんに「あの山はどこから登るんですか」と聞いた。
 「さー最近は登る人もあんまりおらんから道があるかどうか・・・武雄神社の前の道を左へ行って登っていったあたりから昔は登りよったばい」

 地図を見ると、武雄神社前から南へ500mほど、南ピークの山懐に分け入ったところに稲荷大明神と書かれている。そこから登る道があるだろうと見当をつけて、まずはそこを目指す。

 
(左)武雄神社近くの慰霊塔から   (右)船首に当たる南ピークを拡大

 御船山の南西側は、御船山楽園というツツジの名所になっているようだ。そこへ続く立派な車道を登ると、右手に道が分かれて、梅林になっている。
 ここが稲荷大明神への分岐っぽいが、登山口ともなんとも書かれていない。こんなに目立つ山なのに、武雄の人は登らないんかな。

 梅林への分岐

 とりあえずそこを右へとると、梅林の中に、山へと向かう地道が続いている(稲荷大明神へはこの道が正解であることが後に判明する)。
 何の標識もないので、念のためその先にあった一軒家のおばちゃんに確認したら、おばちゃんはこうおっしゃった。
 「向こうの道を登っていったら壊れかけの鳥居がある。そこから登れ」
 おばちゃんは梅林の中の地道を指して「向こうの道」とおっしゃっていたのだが、アホな俺は、さっき歩いてきた御船山楽園への車道のことだと勝手に思い込んでしまった。
 で、元の車道へ戻って、御船山楽園のほうへ歩きながら「壊れかけの鳥居」を探す。まったくもってアホ。

 赤線は愚かな彷徨

 歩いて行くと、山の真南あたりから山へ入る道がある。でも「壊れかけの鳥居」はない。どんどん稲荷大明神から遠ざかっているんだが・・・。
 さらに進むと大きな駐車場があり、右前方に御船山の南壁が聳え立つ。ありゃ〜、こっち側から登れるとは思えない。

 無理でしょう、こっちは

 駐車場係のおっちゃん二人に聞いても、知らんと言う。
 さてはさっき通り過ぎた真南の道だったのか、と考えて再び戻り、とりあえずそこから山に入った。武雄温泉駅からここまでで1時間経過。

 
(左)真南から山へ入る道   (右)正面に船首の南ピークが鋭く聳え立つ

 植林の中にしっかりした踏み跡があるが、そのうち錯綜してきてわからなくなり、右手の尾根に上がる。そこにも道はないが、どうせ低山だし無茶苦茶登ってもじきに頂上近くに出るだろうとナメまくって、戻ればいいものを道なき斜面を無茶苦茶に登る。
 んで苦闘すること30分。岩壁に阻まれてそれ以上どうしても登れなくなって立ち往生。ははは、また余計な時間と体力を使ってしまったよ。よりによっていちばん急な南側から登るなや。

 
(左)尾根、急傾斜のヤブ   (右)岩壁に阻まれて右へ迂回

 
(左)「Y2」というペンキ字を見つけた。喜び勇んで強引によじ登る   (右)もうすぐか!

 
(左)と思ったら、また越えられない壁   (右)これ以上は進めない地点から、船尾の北ピークが見えた

 でもこのまま下山するのもアホらしい。危険な岩場を脱出したあたりから、右側(東)の稲荷大明神の方角へ向けて斜面をトラバースしつつ再び登ってゆく。

 15分ほどヤブを漕いで小さな尾根を越えたとたん、突然、電気ノコギリのような機械音が間近で響き渡る。げっ、人間の生息域に出たのはひと安心だが、土木工事ってどういうこっちゃ?
 近づくと主稜線のすぐ下で一人のオッチャンがセメント作業か何かをしている。岩場の崩落防止作業かな。そばに材料運搬用の軽便モノレールが設置されている。
 レールは尾根の手前で終わっており、そこから船首方向へ登ってゆく道がある。やっと本来の登山道に出たようだ。

 
(左)黙々と働く土木作業員   (右)やっと道に出た

 若干の岩場を越えて尾根に出ると、工事現場から数分で頂上寸前の雰囲気が漂い、突如としてナナメに傾いた巨大な岩が現れた。どうやらその上が御船山の最高地点らしい。
 巨石の向こうに小さな祠があり、その前の狭い平地に三角点がある。そこに立つや、武雄の町から佐賀平野の大展望が広がった。

 
(左)ナナメの頂上石、5メートル以上ありそう   (右)その向こうに祠がある

 
(左)三角点からは大展望   (右)お社を覗くと、住吉大神(航海の神)が祀られていた


頂上から東の連続写真。武雄の町を一望できる

 佐賀県を代表する弥生遺跡・吉野ヶ里は内陸にあるが、かつてはその近くまで有明海が湾入していたらしい。武雄も佐賀平野の西奥に位置する内陸盆地だが、当時は有明海からの船運の終着駅でもあったことだろう。
 はるか昔、東シナ海を渡ってきた人々は有明海から川を遡り、行き着いた武雄でこの巨大な船のモニュメントのような山に迎えられた。だとしたら、人々がこの内陸の山に海の神である住吉神を祀り、航海の安全を祈ったことも不思議ではない。

 巨大なナナメ岩にもソロソロと登ってみた。てっぺんに立つと視野はさらに大きく広がって、360度パーフェクト。この岩こそ御船山の切っ先であり、今まさに映画『タイタニック』のあの場面が俺に訪れている!
 ・・・と足元グラグラさせながら一人ぼっちで手を広げる男44歳ここにあり。

 
(左)ナナメ岩を正面から登る   (右)北ピークのさらに北に奇妙な岩塔群を発見

 山頂に15分ほど滞在してオニギリを食ってから、来た道を戻る。
 工事現場の近くの尾根にこんな岩があった。崩落しないよう真新しいコンクリで固めてある。ははあ、こういう工事なのだな。

 補強された「10」番の岩

 工事現場に行くと、作業員が2人に増えている。聞くと、やはり岩場の補強工事だそうだ。

 尾根を北ピークへ縦走しようかなと思っていたが、この工事とモノレールによって尾根筋のルートがワケわからんようになってるし、ヤブ漕ぎもなんとなく面倒になったので、パス。もう下山して温泉にでも浸かるとしよう。
 作業員らは、
 「モノレールに沿って下りていけば神社に出る。そこから石段があるよ」
 と言い残して、モノレールに乗って下りてゆく。おい! 俺も乗せてくれ・・・と喉まで出かかったが、3人も乗るのは無理そうなので我慢した。

 
(左)登山道がモノレールに占領されている   (右)楽しそう・・・

 作業員の言ったとおり、モノレールはモロに登山道に設置されている。レールに占拠されているため、かなりの急坂なのに歩くスペースがない。レールをさわったら黒い油がつくし。
 レール横をなんとか下って、数分で神社に出た。荒れた石段を下りると、ああここにあったのね「壊れかけの鳥居」ちゃん。

 
(左)真っ赤なお社、これぞ稲荷大明神   (右)そしてこれぞ「壊れかけの鳥居」

 梅林の道を下っていると、ちょうどさっきの作業員らも降りてきた。俺の足がモノレールよりも速かった。
 山頂からわずか15分で、道を尋ねたおばちゃんの家まで戻ってきた。ここから素直に登っときゃアッという間だったのね。

 帰路に着く作業員ら

 目立つだけでなく、素晴らしい展望と歴史のロマンを感じさせる魅力的な山なのに、あまり登る人が多くなさそうなのが意外だった。
 でもたぶん、岩場の補強工事はハイキングコースを整備するためのものだろう。工事が終わってモノレールを撤去したら、登りやすい道が作られ、きっと道標も設置されることでしょう。
 ま、マヌケな俺にふさわしい山歩きだった。 (06.12.27)


武雄温泉から。手前が船尾の北ピーク、奥が今回登った南ピーク
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