ふしぎ山
明星岳 みょうじょうだけ
鹿児島県屋久島町、651m


 屋久島、再訪!
 だって前回来た時に、安房から見えたこの山が気になって仕方なかったのよ。

 そいつは、ひょいっと頭をもたげて安房の港をじっと見下ろしていた。
 見とるがな、こっちをモロに。
 でも、安房の案内所にいたニーチャンに「あの山に登る道はあるか」と聞いたら「ない」と言うし、地図にも道は載ってないし、とりあえずそのときはいったん断念した。

 ところが神戸に帰ってから検索したら、この山への登山レポートがいくつか出てきたがな。

 屋久島には「岳参り」という風習が残っているらしい。年に1〜2度、各集落の代表者が神山に登って、島の守り神である「一品宝珠大権現」にお参りするというものだ。
 この明星岳は安房集落の神山であるという。で、その岳参りのための道があるんだと。

 
(左)屋久島はここ   (右)明星岳のだいたいの場所(赤い十字) 赤いひし形は安房集落

 しかしあれからもう4年半か・・・月日の経つのは早いな。しみじみ。
 足腰立たないジジイになる前にと、屋久島へついた翌朝さっそく明星岳へと向かう。

 安房集落の北入口の交差点に鹿児島県総合庁舎があり、そこから山へ向かって1直線に道路が延びている。

 
(左)安房港付近から   (右)茶色線は林道、赤線が登山道

 ふーむ。相変わらずこっちを見ているが、見ようによっては小指を立てて「私はコレで・・・」とやっているようにも見えなくもないな。わからん人はおとうさんに尋ねましょう。

 
(左)まっすぐ伸びる道   (右)オフロード林道

 舗装道路をぐんぐん山に向かうと、合同庁舎から1.5kmくらいのところで、いきなり2車線の立派な道になる。
 そこから先100mちょいくらいかな、道が右にカーブするあたりで左に入るダートの林道あり。とくに表示はないけど、これが明星岳の登山口へつながる林道らしい。
 林道は未舗装ではあるが、車輪が乗るように轍位置の2筋だけコンクリで固めてある。でもかなりの急登で崩壊部分も多い。

 がんがん登って1kmほどで小さな峠を越え、そのあたりで車止めのチェーン登場。
 チェーンをくぐると道は平坦になり、山の南側山腹を横切って行くかたちになる。すると前方に・・・。

 
(左)出たな!   (右)やっぱりこっちをグリッと見下ろしてるぞ

 
(左)植林を伐採している   (右)水道施設のフタ多数登場

 明星岳の南の506mピークの南麓を回り込み、車止めから45分ほど歩いて飽きてきたころ、路面にマンホールふたのようなのが4つも5つも現れた。
 そこ地点で右側の斜面を見ると、階段状になった上にコンクリが見える。ははーん、ネットにあった登山口はここだな。
 登山口には何の表示もないけど、林道のもう少し先にはガードレールつきの立派な橋がかかっているから、そこまで行ったら行き過ぎだとわかる。

  
(左)ここから登れるよね   (中)コンクリまで少し登って林道を見下ろす   (右)水道パイプみたいなのが続いている

 斜面を少し登ると登山道は平坦になり、林道に平行して山腹を進むかたちになった。
 数分いくとパイプから水がじゃんじゃん出ているところがあり、さらに進むとコンクリ施設が現れて、水道関係はここで終わり。

 
(左)冷たい屋久島の水が惜しげもなく大放出   (右)水道施設

 その先、沢を渡ったところで道は不明瞭になった。アレ?と思って右側山腹を見たら、ピンクのリボンがいくつか見える。
 あとはピンクリボンのお導きどおりに進むのみ。

 
(左)この沢を渡ってから   (右)右斜面のピンクリボンを探す

 登るにしたがって斜面は厳しくなり、ルートは怪しくなった。足を置きやすそうな石か木の根を探しながら、あえぎあえぎ登ることになる。
 リボンの数も減って道とは呼び難くなってきたが、尾根でも谷でもない微妙な地形の急傾斜をナナメに登って行くかたちなので、リボンを見失わないようにするのがよさげ。
 このあたりは里に近いせいか、伐採後の二次林で細い木ばかりだ。

 それにしてもこの日は梅雨の切れ目の晴天で風もなく、ものごっつー蒸し暑い。
 しかも俺は久々の山歩きでもあったので、登山口から30分ほどの激登りで早くもバテはじめた。息ハアハアの汗ダラダラ。苔むした森を1匹の無力な生物となって奥へ奥へと這い進む。

 40分ほどで小さな尾根に出た。3本に分かれた大きな木があって、その根元で一休み。いきなり山全体が鳴るようにセミたちが鳴きはじめる。
 そこから尾根をたどって頂上に至るのかと思ったら、尾根を乗り越して再び山腹の登りが続いた。同じパターンがそのあと2度ほど続いて、どこをどう登っているのか判然としなくなる。

 最初の尾根から45分、四つ目くらいの尾根を目の前にした谷の源頭部で、目の覚めるようなヒメシャラの大木が現れた。
 バカデカさといい人肌のような樹皮の色といい、この存在感は圧倒的だ。この森の主だな。

  
(左)最初の尾根にあった木   (中、右)ヒメシャラ神、ズドーンと降臨

 
(左)ヒメシャラのつるつるの幹はもたれるのにちょうどよい角度   (右)ようやく主稜に出た

 ヒメシャラからひと登りで尾根に出た。ここで鋭角に南へ折れて尾根上にルートが続いている。どうやら明星岳の頂上へ続く稜線のようだ。
 しかしまもなくルートは尾根の右側(西)を巻くかたちになる。

 地形図で明星岳を見ると、下界を見下ろしているように見えた頭部(岳参りの頂上)は最高点ではなく、頭部の背後に控えている肩の部分が本当の頂上らしい。
 いま歩いている岳参りルートはその肩を右に巻いて、わき目もふらずに頭を目指しているようだ。

 
(左)肩(頂上)を右に巻いていくと、下界を見下ろす頭(岳参りの頂上)が見えた   (右)頭と肩の鞍部

 肩を巻き終えて急坂を下り、コル(鞍部)を通過して頭への登りなおし。
 ここからは補助ロープが現れた。ガケを横切ったり急斜面をよじ登ったりするが、それほど危ないわけではない。

 
(左)最後の急登とロープ   (右)着いた!

 最後の急坂を登りきった瞬間、頂上に出た。わかりにくい登山口から1時間50分。
 眼前に安房とその周囲が大展開する。



 
(左)安房拡大   (右)海際から山へのせり上がり、これが屋久島

 ついさっきまで俺はあの集落にいて、この山に上から見下ろされていた。俺はそれを眩しく仰ぎ見た。
 それが今や、俺を見下ろしていた神の頭のてっぺんに俺が立って、下界を見下ろしている。
 わははは。これはいったいどういうことよ!

 少し北に岳参りの祠があった。

 
(左)真新しい   (右)これが一品宝珠大権現

 
(左)手前が明星岳の本当の頂上(651m)、奥は船行前岳(943.6m)   (右)遠くに種子島が見える

 頂上からの景観は素晴らしかったが、風もなく、暑くておれない。
 奥岳方面から雨雲がゆっくりと流れてくる。

 パンを食べ、30分ちょっとで頂上をあとにして来た道を戻る。
 肩の部分の本当の頂上にも行ってみようかなとも思ったが、樹木に覆われて展望もなさそうだし疲れてもいたのでパスした。

 
(左)帰り道、小さなクワガタ   (右ヒメシャラで再び休憩、幹にもたれて見た源頭風景)

 コケとツタ草

 バテた体には下りもつらい。下り道で何度も休憩するなんてことがこれまであっただろうか。
 持ってきたお茶もとっくに飲み干した。ようやく登山口近く、パイプから水が噴出しているところまでたどり着いて、屋久島天然水をがぶ飲みした。

 
(左)帰りの林道、真南から   (右)再び安房港の近くから

 1時間20分かけて登山口まで出て、さらに林道歩き。ポツリ、ポツリと雨が降り始める。
 安房の食堂でトビウオとカツオの刺身にありついた頃には、土砂降りとなった。

 梅雨の一瞬の切れ目に、屋久島の神様んちにちょっとお邪魔して、彼がいつも眺めている下界風景をこっそり見せてもらった日であった。 (登山日:2010.6.29)
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