![]() |
|
|
|
去年の夏、古座川の上流にある嶽の森に行った帰りに、バスの窓からこんな岩山が見えた。![]() ![]() 川の向こう岸にそびえるその山は、古座川町の観光パンフによると「少女峰」とある。 えらいイカツイ少女やな〜と思いつつ説明を読むと、こんな哀れな物語が書かれてあった。 なんでも戦国末期、おふじという名のカワイコちゃんがこの山の麓に住んどった。美しく気立ても優しい17歳のおふじちゃんは近隣の若者らのアイドルだったが、彼女自身は近くの重畳山(かさねやま)にある神王寺の修行僧に恋していたらしい。 ところが古座沖の九龍島を根城にする海賊の首領に見初められてしまい、ある夜、さらわれそうになった。おふじちゃんは必死に逃げて重畳山を目指したが、別の山に追い詰められて万事休す、とうとうその頂上から古座川に身を投げてしまった。 それがこの山なんだと。 ふーむ。さぞや無念だったろう。17歳の夜の出来事だったので、この山は別名十七夜嶽とも呼ばれているらしい。 よし、俺はおふじちゃんの足どりを辿ってこの山に登り、彼女の無念に思いをはせることにしよう。 ところで、この山には登山道のようなものはなさそうだが・・・誰か登った人のレポートでもネットに出てないかな〜と検索したが、全然ない。「少女峰」で検索したら、なにやら中国語のサイトがゾロゾロ出てくる。ほう、中国にも少女峰があるのかと思って開いてみたら、氷河をまとった雪山だ。チベットかヒマラヤか・・・ん? よく見たら、スイスのユングフラウだった。そうか、ユングフラウを漢字で書くと少女峰なわけか! ということは、なんと古座川の少女峰は日本のユングフラウだった。ずいぶん高さは違うけど。 結局、登山情報は見つからなかったが、バスの窓から角度を変えて撮った写真では、南側の斜面が皆伐されている。ここから尾根まで上がり、岩峰の裏に回ったら登れそうな感じもする。 ![]() というわけで半年後の冬、満を持してやってきた。 紀勢線の古座駅から、バス道の対岸(西岸)を古座川に沿って上流へ。立派な舗装道路を3kmほど歩くと、河内橋に出る。橋を渡らずにそのまま直進すると道は細くなり、ホルスタインが飼われている牧場の前を通る。 さらに行くと製材所のゲートがあり、道はその敷地内に入っていく。製材所の人と目が合ったら軽く会釈し、敷地を出ると細いコンクリ道となる。 ![]() ![]() (左)古座川の清流を遡ること40分 (右)牧場の前を通る ![]() ![]() (左)製材所の敷地内を通る (右)それを過ぎればこんな道、「水道施設のための私道」とあった やがてカーブを曲がると、ふいに少女峰が荒々しく姿を現す。バスの窓から見た伐採地の下だ。ここまで駅から40分ちょっと。 ![]() 伐採地には、作業用の通路らしきものが斜面にジグザグについている。植生が失われてもろくなっている斜面を崩したりしないよう、丁寧に登り始める。 ![]() ![]() (左)麓から見上げる (右)伐採地をジグザグに登る 伐採したあとには、白い筒で保護された苗木が植えられている。杉かヒノキかなと思ってのぞいたら、冬枯れでよくわからなかったが、花の咲く広葉樹っぽい感じ。 古座川のシンボルでもあるこの山を花で彩ろうという計画なのかもしれない。この山では毎年夏の初めにおふじちゃんの化身とも言われる赤いさつきが咲くというから、あるいはそれなのかも。 事前に写真から頭に描いた通りのルートで急傾斜を登ってゆく。 伐採地の最上部に近くなると斜面はさらにきつくなり、足場は悪くなる。 ![]() ![]() (左)だんだん近づいてくる (右)ぐんぐん高度を上げる ![]() ![]() (左)なかなかの迫力 (右)もうすぐ稜線 このあたりで登頂の可能性は確信に変わる。思ったとおり、岩峰の裏側はさほどきつくなさそうだ。 伐採地を稜線まで突き上げてから尾根づたいに進むつもりだったが、少し手前から樹林に入っても行けそうだったので、そこから突入。ここまで麓から18分ほどだったかな。 ![]() 樹林帯は下草もそう多くなく、サルトリイバラもあるがうるさいほどではない。シカの足跡が随所にあるが、人間のものもあるような気がする。 まもなく狭い尾根に出ると岩がちになるが、さして難しいところはない。 木の枝をかきわけて進むと、ヤブに入って7分ほどで、あっけなく頂上に到着。 ![]() 頂上はコシダに覆われているが、周囲に樹木が茂っていて見晴らしはよくない。松の枝をかきわけてもうちょっと前に進むと、ポンと先端の岩に出た。 とたんに3方の眺望がバーンと開ける。岩の下は目のくらむような断崖で、古座川の水面が光っている。お尻がヒュ〜っとなる。 ここか! おふじちゃんはもしかして、ここから飛んだのか? ![]() ![]() (左)松の木をかき分けると先端岩に出た (右)先端岩に座って足をぶらぶら ![]() ![]() (左)上流部(西)を眺める (右)おや? あれに見えるは前日登った嶽の森山だな(拡大) ![]() おふじちゃんの恐怖と無念に感じ入りながら、先端岩に座ってパンを食べ、カフェオレを飲む。美しく生まれるというのも大変なのね・・・。 ![]() ![]() (左)おふじちゃんが行こうとした重畳山ははるか遠い (右)石を落としたりしないよう慎重に下りる 下りは頂上から麓までわずか15分ほどだった。 そのあとはまた古座川に沿って40分以上の車道歩きで、駅まで戻る。 ![]() 今でも毎月17日の月の夜には、下の河原で村人が線香を焚いておふじちゃんを供養するとかいう話だ。 そのこと以外にも、この山に登る場合には、丁寧に苗木を植えられている地権者や、製材所の敷地内を通行することなどへの配慮も必要と思われる。 できれば1人か2人で、そっと訪れるのがよさそうね。 (06.1.20) |
|
「ふしぎ山」トップ<ホーム |