ふしぎ山
鎧岳 よろいだけ
奈良県宇陀郡曽爾村、893.9m

 柱状摂理の岩壁を胸元にまとってそそり立つ野武士のような姿が、関西の山好きの間でけっこう有名な曽爾村・室生火山群の鎧岳。
 じつは半年ほど前に勝負を挑んだのだが、問答無用の「1週間バス運休」によって阻まれた
 そのリベンジを果たす日がとうとうやってきたわけだが、奇しくも俺の誕生日。しかも、たいてい太平洋一人ぼっちの俺にしては珍しく、今回は3人の登山隊を結成しての出陣だ。

 近鉄名張駅から因縁のバスに無事乗車して、奥香落渓谷を遡る。例年より10日以上も遅れているという紅葉はジャスト真っ盛りで、沿道は断崖に赤や黄色の絵の具がこぼれたような絶景だ。

 30分弱乗って「太良路」で下車。バスを見送って南へ歩くと、正面に見えてくる山は・・・あれっ、鎧岳さんですよね? でも観光パンフでよく見る姿(冒頭写真)とはずいぶん印象が違う。
 ここからだと真横になるようだ。南のエッジには岩壁の鎧を装着しているが、山頂部は南北に長く、その北には尾根筋までびっしりと杉が植えられているのが見える。

 しばらく幹線道路を進むと登山口の標識が現われ、そこで右折。さらに立派なカヤの木をまわり込んでしばらく進むと舗装が途切れる。

 
(左)太良路付近、鎧岳の東面   (右)カヤの木を過ぎたらまもなく山道になる

 そこからは杉林の山腹をジグザグに登ってゆく。林業用の作業道らしく道幅がある。途中で「新宅本店前」からのコースが右から合流する。
 斜面はだんだんキツくなる。高度を上げるにしたがって道は細くなるが、やはりひたすら植林斜面のジグザグ登り。どこまで行っても杉林。どうやらさっき見た北側の植林地帯を尾根まで登らされるようだが、いいかげん飽きてくる。夏場は絶対つらかろう。
 40分ほど黙々と登ってやっと尾根に出るが、ここにもびっしり、まるで親の敵のように杉を植えて植えて植えまくり。いやもう感心しちゃうねえ。

 
(左)植林斜面をひたすら登る   (右)尾根に出てもこの調子

 ここでおにぎりを食って一息入れ、尾根を南へ進む。するとまもなく左側が天然林になり、やっとお日様を拝めるようになる。
 5〜6分で兜岳への分岐点、ここで初めて東の展望が得られる。

 
(左)直進すると山頂、右へ降りると峰坂峠から兜岳へ至る   (右)太良路集落がもうあんなとこ。正面に倶留尊山

 さらに尾根を直進すると右側も天然林となり、ほどなく円丘状のピークについたと思ったら、そこが山頂だった。尾根に出たところから10分ほど。

 頂上からは南東の古光山方面が見えるが、あまり大きな視野ではない。植林帯をじっと我慢で登ったわりにこの程度の展望じゃ、ちょっと物足りないな。しかも鎧岳名物の切り立った断崖はまったく窺い知れない。平和な秋の里山風景だ。
 山頂から南の断崖方面へ道らしきものが続いているが、「危険、立入禁止」との看板がある。

 進入禁止の看板

 かくして、お目当ての鎧岳はさしたる感動もないまま登頂してしまった。
 この山はたいてい隣の兜岳とセットで登られることが多いようだ。せっかくだからそっちにも行ってみよう。

 分岐まで戻って、西の急斜面を下る。こちらもやはり面白みのない杉の植林帯だが、登路と違って下草が生えている。
 15分ほど下ると峰坂峠。ここから一転して、いよいよ兜岳の登りになる。
 これがまた、これでもかという激登り。しばらくは相変わらずの杉林だが、登路は岩がちで、トラロープがずっと張ってある。鎧岳の登りよりきついが、変化があっておもしろい。

 
(左)兜岳への激登り   (右)きついです

 ぐいぐい登るうち、周囲は植林帯から明るい天然林へと変わる。
 汗びっしょりになったころ、ポンと見晴らしのいい場所に出た。谷を隔てて、さっき登った鎧岳の西面と、その向こうに曽爾高原がよく見える。

 
(左)さっき登った鎧岳の西面、植林と天然林の境目が頂上   (右)鎧岳の岩壁を彩る錦

 麓の植林の中にポツンと孤独な落葉樹

 そこからはややゆるくなって、しばらくの登りで頂上に到着。鎧岳山頂から1時間くらいだった。
 山頂は、ゆるやかなドーム状のちょっとした広場になっている。周囲に木が生えているため展望はあまりないが、明るくてのんびりくつろげる。地面は落ち葉でフカフカで、寝ころぶと気持ちがいい。

 
(左)あれが兜岳の頂上だ   (右)頂上、オバサン3人グループがいた

 寝ころんで見上げる空

 しばらく休んで、反対側に下山。こちらも相当な急斜面で、しかも岩場が多い。だが要所にロープが設置してあってさほど危険はない。
 ひとしきり岩場を降りたら、「どうぞ寝ころんでください」と言わんばかりに、紅葉の木々と日差しに包まれた心地よい岩盤が広がっていたりする。ルートは終始天然林で、鎧岳に比べたら楽しくてニコニコだ。

 兜岳の下り

 30分ほどでメナシ地蔵に着き、山道は終わる。
 そこからは車道歩き。キャンプ場を通り、30分たらずで横輪バス停に出るが、その道沿いの紅葉がことのほか美しくてルンルン気分だ。

 
(左)メナシ地蔵、目どころか顔もない   (右)メナシ地蔵から下る道から兜岳を見上げる

 
(左)キャンプ場手前あたりから鎧岳   (右)キャンプ場から振り返る兜岳

 横輪に着いてバス時刻を調べると、あと2時間ほど来ないことが判明。太良路まで戻ったらもしかして曽爾高原から降りてくるバスがあるかもと、舗装道路をさらに30分ほど歩く。
 途中の嶽見橋バス停あたりでは、よくガイドブックなどにある鎧岳の有名な姿(冒頭写真)を拝むことができる。あれを右から登って左に下りたとはね。

 
(左)嶽見橋から、兜と鎧のツーショット   (右)太良路に近づくにつれて形が変わる鎧岳

 いいかげん車道歩きに飽きたころ太良路に着いたが、バス便はやっぱりずっとあとまでナシ。かといって時間つぶしできるような飲食店も皆無。
 仕方がないので村に1台しかないタクシーを呼んで、名張まで降りる。単独時にはありえないゴージャスな行動だ。でも沿道の紅葉と渓谷の美しさと、女性運転手のくわしい説明で、料金に見合う満足が得られた、かも。

 ちゅーわけで、スックと猛々しい鎧岳だが、ルートが植林帯につけられているせいで、登るとあまりおもしろくない山だった。鎧と兜、どっちかだけに登るなら兜岳にしましょうね。「見るなら鎧、登るなら兜」、さあみなさんご一緒に。そして事前のバス便チェックも忘れずに。  (06.11.16)
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