関西の激渋銭湯
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東京の激渋銭湯【多摩地区】
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鶴の湯 ★(武蔵野市) (廃業)
小平浴場 ★(小平市)
 東京都(西部)の激渋銭湯東京都(東部)の激渋銭湯

鶴の湯 ≪廃業≫

2009年5月、廃業された模様です。
レポートは営業当時のものです。


武蔵野市吉祥寺北町3−1−21
0422-51-6939
【営業時間】16:00〜24:00
【定休日】金曜日


 まったくもってエクセレント。「東京で最も感激した銭湯は?」と聞かれたら、ここを挙げるかもしれないな、今のところ。

 井の頭公園に行った帰り。駅から五日市街道へ出て北西へ10分ほど歩くと、北側に煙突が見えてくる。
 これこれこれ、きましたよこれですね。問答無用に説明不要な「これぞ」の構え。

 
(左)懸魚もりりしく   (右)黄色の彩色が目立つ

 まだ開店の数分前だったが、玄関を開けに出てきたばあさんが「中でお待ち」と入れてくれた。
 脱衣所に入る。と、見事なまでのイニシエ風情が隅々まで充満している! 高〜い折り上げ格天井はもちろん、床から窓から壁から、銭湯ファン感涙の麗しくも重厚なる木造空間。浴室入口のみアルミサッシに替えられているが、あとは全部昔のまんまだ。
 それでいてボロさはない。よく手入れされている。吐息が漏れちゃうよ。
 これが東京の銭湯だよ、と関西のみんなに教えたくなるねぇ。

 
(左)すぅーっと深呼吸したくなる   (右)左のテーブルには組合機関紙「1010」など陳列

 番台のばあさんがまた人当たり柔らかで感じいい。
 「
女湯はまだお客さんがいませんからどうぞこっちもご覧ください」と言ってくださるので、お言葉に甘えて禁断のカーテンをくぐる。
 うひょひょひょ〜、これが鶴の湯の
女湯浴室だっ!

 正面の壁に早川師の富士山ペンキ絵

 
(左)富士山の下には鯉のタイル絵、その下に湯舟  (右)男女隔壁には3枚のタイル絵

 誰もいないとはいえ、女湯はやはりなんとなく緊張するな〜。
 しかしまー正面に富士山、その下に鯉、仕切り壁に名所タイル絵と、クラシックな3点ビジュアルが完璧に揃った黄金セット。しかもそれぞれ保存状態が最高。じつに美しい。

 男湯へ戻り、パンツを脱いで浴室へ。
 男湯のペンキ絵は富士山ではなく「和歌山」とある。瀞峡っぽいな。平成16年4月30日か、描かれて1年たってない。
 湯舟は奥壁に深浅2槽の東京伝統スタイル。なんともまあ渋い色のタイルが張られているわい(上の女湯写真)。外側には角の丸い菱形のもの、内側は2cm角。長年の味わいが深々とにじみ出ている。
 深風呂にはお約束の気泡。おや、湯温は41〜42度弱と東京にしてはぬるめだ。じゃ、ゆっくり浸かりながら絵でも鑑賞しましょうか。

 ペンキ絵の下、章仙師のタイル絵には鯉のほか、おしどり、鶴、鴨などの精密な絵が描き込まれている。毎日見てても飽きないでしょう、これは。
 タイル絵の一部が檻のようになっており、中に石がゴロゴロ詰まっている。湯はそこから出てくる仕組みになっている(これも女湯写真)。壁にある説明によると「ガリウム石浴泉」、この石によってラジウム温泉と同じような湯になるんだと。ほんま?

 こちらは男湯

 お次は男女仕切り壁のタイル絵。これも女湯とは違うようだが、奥から松島、筏流し、富士山と並んでいる。真ん中の筏流しには章仙のサインがあるが、右端の松島には「T.N.」というサインがあった。

 手前の洗い場も東京らしく両側壁カラン列+島カラン2列のたっぷりサイズ。石鹸などを置く段には小さなブロック石状タイル、これも渋い。排水はステンレス溝。
 カランの湯はちょっとぬるいな。一番風呂だからか。

 上がりは飲み物販売あり。
 ばあさんによると今の建物は昭和32年に建てられ、その後カランなど改装。湯舟は「あれこれ設備を増やすと狭くなって家の風呂みたいになるからこのままがいい」とのお客の声に従って、シンプルなままにしているという。
 ばあさん自身は昭和15年からここの番台に座っているそうな。息子さんが西宮にいるとのことで、関西に親近感を持っておられる様子がまたうれしかった。

 というわけで文句なしの伝統的東京銭湯ロイヤルストレートフラッシュ。満ち足り無限大。 
 (2005.1.22)

  
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小平浴場



小平市津田町3−4−22 →地図
電話 042-343-3018
【営業時間】15:45〜23:00
【定休日】第1、第3月曜


 玉川上水の近く。小平第4小学校と道を挟んで、ちゅどーんと聳える煙突が否が応でも目に入る。
 近づいていくと、どう見ても戦前チックな木造のド迫力銭湯が見えてくる。し、しびれるぅ〜!

 
(左)発射台  (右)もんのすごカッチョエー!

 前に回ると、玄関は路地を入ったところにある。向かいの家の壁が迫っているため、正面から全体写真を撮りにくいのが残念だ。
 暖簾は出ていない。そのかわりにツタが繁茂して垂れ下がっている。もうただごとではないオーラだ。

 
(左)前方へ迂回  (右)暖簾代わりのツタ

 
(左)玄関わきのタイルしびれるぅ〜  (右)入って正面上部

 靴を脱いで戸を開け、番台でおかみさんに銭を払う。毎日やっていることなのに、ここではまるで別の意味を持つかのようだ。
 目に見えない何かが語りかけてくる。俺の皮膚と心臓が遠慮がちに応える。

 
(左)この入り口脇のタイル!  (右)お見事の折り上げ格天井

 
脱衣場、上部ガラスの桟がよい

 なんだろう、この感覚は何度か憶えがある。
 はじめて人吉の新温泉に行った時もこんな気配を覚えた。
 よく見たら、東京レトロ銭湯の伝統的なつくりであり、特別に変わった様子はない。備品類も、やや傷んだ脱衣箱、古い体重計と身長計、ベンチ、そして洗濯機。
 だが、何かが違う。それぞれのモノたちが経てきた歴史の厚みだろうか。

 着衣を島ロッカーに入れて、広々とした浴室へ。
 奥壁のペンキ絵が目に飛び込んでくるが、定番の富士山ではない。海だ。多島海だ。隅に「瀬戸内海」と書いてあるぞ…俺がいつも見ている瀬戸内海ではないか。
 俺はなぜか誇らしげな気分になった。
 ペンキ絵の下には、鯉と金魚のモザイクタイル画がある。

 その下に湯船が二つ。左は気泡の深湯、熱い湯だ。右は浅めの広い湯船でジェットつき、深湯よりややぬるめ。
 湯船のヘリ外側のタイルは長年の色が沈着して茶色くなっている。だが不潔なわけではない。
 カランは両サイドと島カラン2列。それぞれの間隔に余裕がある。シャワーは一部のカランにしかついていない。

 浴室も古びてはいるが、東京銭湯としては一般的で、シンプルだ。ただ、やはりなんらかのオーラが漂っているように感じる。
 一ツ橋大学と津田塾が近くにある。昔はさぞや学生が多かったろうが、今やそんな様子もない。
 ただ、広さだけがその昔日を物語っている。漂っているように感じるのはその残像だろうか。

 昭和28年からやっておられるとのことだが、この建物はもっと古いのではないだろうか。
 だが建物に比して、おかみさんがとても元気なのが意外で、楽しい。
 近いうちにもう一度訪ねてみなければ、と思わされるものがあった。
(2014年11月)

 
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