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瀬戸内 だいだい担ぎ旅 (広島県尾道市・因島市) 2005.1.7〜8 |
冬の青春18きっぷで、尾道へ---。 ははは。なんというこっぱずかしい響きであろうか。 なんちゅーても青春の尾道である。らしい。三部作の大林映画などですっかり若者の憧れの街ということになっている。らしい。 でも三部作のどれもまだ観ていない僕の中には、世間一般の人が憧れる尾道イメージが全然成立していないんだが。 まあ、そんな素の状態で訪れた尾道だ。 |
寄り道の福山 朝のはよから電車に乗って西へ。岡山県を素通りして広島県に入り、午前中に福山到着。 あと駅3つで尾道だが、なんとく気まぐれが起き、ここでちょっと途中下車。 福山は広島県第2の大きな街だが、歩くのは初めてだ。 駅前には大きなビルが立ち並び、歩行者も車も多い。これ、四国か山陰あたりへ持って行ったら間違いなく県庁所在地だろう。 味わい深いまちなみを求めて、例によって銭湯をチェックポイントにしつつ歩いてみる。 途中でこんな薬屋を発見した。 イタイイタイ病なら知ってるが 銭湯は駅の南西部に4軒ほどある。それらをつなぎながら歩いたが、特に変哲のない、一般的で平板な表情のまちなみだ。 銭湯が集まっている場所に味わいがなければ、そうでない場所はなお味気ないことが多い。福山というところはどこもこんなふうに面白みがないんだろうか。 (左)一番古そうなだるま湯 (右)「ハイセンス公衆浴場」というコピーのセンスが問題 1時間ほどブラついて、あまりおもしろくないので駅に戻り、今度こそ尾道へ向かう。 |
劇的に尾道 列車が東尾道駅を過ぎた頃、左手の車窓に瀬戸内海が現われた。と思ったら海岸沿いに工場群、そして向かいの島へ渡る尾道大橋、川のように狭い尾道水道があれよあれよという間に眼前に広がる。 まるで巻き絵を広げていくみたい。 なかなかドラマチックな展開だ。 列車は右へ緩いカーブを描きながら尾道市街に入る。 海と山に挟まれた、やたらと細長い街だ。神戸も似たような地形だが、ここはその挟まれ度、狭さ度が全然キツイ。どう見ても山から海まで数百メートルしかない。 その狭間に古い民家や低いビルが密集し、合間にお寺の瓦屋根や銭湯らしき煙突が立っている。平面的な福山とはまったく異質な、濃い景観だ。 線路は山際の少し高いところを走っているため、車窓からは街の様子がすべて手に取るように見える。列車はそれらを舐めるようにゆっくり走ってゆく。 それにしても街の狭さ、海の狭さは劇場的ですらある。 なるほどな。これが尾道か。 やがて細長い街の脇を流しきって、列車は西の外れにある尾道駅に停まる。 (左)尾道駅ホームから見た千光寺山の尾道城 (右)駅前には市電風のレトロなバス 尾道駅は海岸沿いにあるが、すぐ後ろには千光寺山が迫っている。 駅周辺は最近再開発されたらしく、真新しいショッピングビルやホテルなどが建っている。車窓から見てきたほどの濃い港町イメージはなく、つまらない。 観光客に人気の「坂道」地帯は駅東側の斜面のようだが、あえて千光寺山の西側から攻めることにした。こっち側は観光マップにも何の印もない。が、尾道にある6つの銭湯のうち3つがこっちに分布している。 駅西のガードで線路をくぐって北へ。すぐ細い路地に入ったところにある栗原温泉は外観改装済。 5分ほど歩いてサティ北側に大栄湯、古そうだが四角いビル状。 もう1軒の寿湯、これがなかなか見つからない。細い路地でキョロキョロしてたら、異様に低い煙突を発見。おっ、とさらに零細な路地に侵入してやっと見つけました。これは強烈。樹木が完全に覆い隠しております。 「いやん、見ないで」状態 その銭湯前の路地から千光寺山の斜面に細い道がついている。ここから山の上へ上がれるかなと思って登り始めたが、路地は途中で墓地内の通路になり、やがて階段状にひしめきあう墓石と墓石のスキマだけになった。でも引き返すのも面倒なので、墓石群を乗り越えて強引にナナメ上へとよじ登る。 そのうち古い道に出て、ポンと山上部の道路に出た。冬なのにいきなり汗だくだ。 千光寺山の上には市民プールや小さな遊園地があるが、ほとんど廃墟と化しつつある様子。少し歩くと、眼下に尾道市外を見下ろせる場所に出た。 南東、尾道水道を挟んで向島 向島の日立造船廃工場 西方面、市街地と尾道大橋 ここから眺められる分だけで尾道全部。まちの規模がわかる。 東へ歩くと、お寺や文学館など「いわゆる尾道」の観光地が現われる。が、今は完全にオフシーズンなので人影はまばら。 急坂の下に海が見える、尾道〜な風景 景色を眺めながら、さらに山腹を巻いてどんどん東へと歩く。寺がやたらと多く、必然的に墓場も多い。 (左)墓、町、その向こうに大橋 (右)大山寺あたりから千光寺山を振り返る こんな坂を上がったり下りたり 尾道市街地東部の久保あたりには、残りの銭湯が集まっている。 (左)休業中の日の出湯 (中・右)路地奥の大宮湯 一番古めかしい日の出湯は、軒下に洗濯物が干してある。道行く人に聞くと、おばあさんが倒れて休業中だそうだ。残念。 金毘羅湯はそっけなく改装されている。組合名簿に載っていないみやこ湯はけっこうレトロな感じ。 商店街の外れにあるみやこ湯 さてと。山沿いに尾道の西から東まで、もう歩いてしまったな。でもまだ2時すぎか。銭湯もまだ開いてないし、中心部の飲み屋探索にも早い。 防地口というところに、因島行きバスの停留所があった。 因島というのもなんとなく魅かれる名前だ。瀬戸内海に浮かぶ島だが、しまなみ海道が開通してバスで行けるようになった。銭湯もいくつかあるようで、僕の旅先候補にも挙げていたところ。 というわけで、みやこ湯のそばの店でおにぎりを買い、因島行きのバスに乗る。 |
びしょ濡れ因島 尾道大橋を渡ると向島。バスは島内の高速道路をしばらく走り、次に因島大橋を渡って因島へ入る。高速道路はそのまま3番目の生口島へと伸びているが、バスは因島北インターで下りて生口橋を見送り、海岸沿いに南へ。 因島市の中心市街地は土生(はぶ)というところだが、その手前の田熊にある「市役所前」でバスを降りた。防地口から45分くらい。バス代は900円以上かかった。 すぐ前が田熊漁港だ。再開発前の尾道駅前もこんな感じだったのではないか。 向かいに亀島という小島が浮かんでいるのをはじめ、見渡す限りいくつもの島影が折り重なっている。 田熊の漁港 広島県の浴場組合名簿によると因島の銭湯は3つ。うち2つは土生、もう1つがここ田熊にある。 海岸から少し離れて細い路地を入ると、出ました大正湯。こりゃまた地味ですな。閉じられた木戸の前に小さな黒板が置かれている。 (左)大正湯 (右)週に3日、不定期営業らしい 田熊から土生の中心部までは1キロ半ほどしか離れていない。まっすぐ歩いて行ってもいいが、海岸沿いの道はけっこう車が多い。 土生の背後に山があり、山頂に塔のようなものが立っているのが見える。地図を見ると天狗山、207.5m。きっと島々の眺めがいいに違いない。 土生の南側から山頂近くまで車道が通っているようだが、地図には田熊側からも細い点線が書かれている。せっかくだから登ってみるか。 土生中学の裏から山道に入ると、かんきつ類の果樹園が現われる。夏みかんくらいの大きさだが、なんだろう。 果樹を収穫していたおやじ2人に「この道を行ったら天狗山へ上がれますかね」と聞くと、一人は「上がれない」、もう一人は「上がれる」と言う。 この果物は何かと尋ねたら、「だいだい」だと言う。ポン酢の原料になるらしい。 「上がれる」と言ったおやじが、「これ持って行き」と言ってだいだいを3つくれた。ありがたく頂戴してポリ袋に入れたが、これ、けっこう重いよ。これから山へ登るのに、ちょっとこれ、かなんな・・・。 これ、食うか、うまいぞぉ 運悪く、細かい雨が降り出した。傘は持って来なかったが仕方がない。 だいだい入りのポリ袋を手にぶら下げながら登っていくと、「上がれない」と言ったおやじの言葉どおり、道がなくなった。あたり一面、だいだい畑。でも下草を刈ってあるので登れないことはない。だいだいの木を縫って、上へ上へと適当によじ登って行く。今日はやたらとよじ登ってばかり。 しかしこんな袋を持ってこんなところを歩いてたら、どっから見てもだいだい泥棒だ。 雨に濡れた上に汗びっしょりになりながら、30分ほどで尾根筋へ出た。だいだい畑の向こうに海が見える。 尾根筋へ出た 尾根には天狗山までしっかりした踏み跡がついている。ここは因島の背骨、左右に海を眺めながらの快適なハイキングだ。 だが歩く人は僕以外に皆無。いく筋かのルートのうち行き止まりになる道もあって、思いのほか時間を食う。 途中のピークは頂上部ブッシュで通行不可、戻って左の巻き道を行く 雨はいつしか止んでいた。 4時すぎに山頂へ。テレビ塔が立っていて、360度の大パノラマだ。これはなんとも素晴らしい。登った甲斐があったよ。 真下には土生の街、向かいの海にはどこどこまでも島々が連なっている。地図を見ると、土生港の目の前にある小さな島々は全部愛媛県に属するようだ。 土生の街と愛媛の島々。360度のうちごく一部しか写真に入らないのが残念 山頂でだいだいを食おうと思っていたのだが、立ち止まると風が冷たくてたまらない。おにぎりだけ食って、だいだいはリュックに無理やり押し込み、早々に山を下りることにした。 これが春なら景色を眺めながら数時間ボーっとしていたいところだが、なにしろ冬、寒いよ・・・。 山頂から土生の街までは道が整備されている。でも相変わらず人間は一人もいない。 15分ほどでポンと商店街に出た。アーケードはないが、それほどさびれ切っているわけでもない。 商店街の南端に、1軒の渋い銭湯、紅梅湯あり。ちょうどいい具合に汗もかいたし、だいだい担ぎ歩きで足腰も疲れてる。 土生の中心商店街 でも日が暮れる前にもう1軒も見ておくか。 商店街を北へ5分ほど歩いたところに寿湯発見。大量の薪が積んであり、こちらも伝統系でなかなかいい感じ。中からおばちゃん連中の声が聞こえてくる。 迷った末に、活気の感じられた寿湯のほうが将来的に安泰そうだと見て、最初の紅梅湯へ戻って入湯した。 いやはや、予想以上の濃さだった。紅梅湯のレポートこちら。 (左)紅梅湯、暖簾が渋い (中・右)寿湯、松の木がナイス 風呂上り、ほっこり。 港をちょっとブラつき、バスターミナル前で開いていた居酒屋へ入る。でも漁港のくせに、雰囲気も料理もまったくもってイマイチだった。 (左)土生港、向かいは鶴島(愛媛県) (右)登った天狗山をふり返る なんとなくケチがついたので、次のバスで尾道へ戻る。 帰りのバスでは寝てしまったので覚えてないが、来るときと異なるルートを走ったらしい。尾道駅で下りたら1000円以上とられた。 |
夜の尾道 バスを降りたらとっぷり日が暮れていた。 尾道水道の向かいに、なにやら光るものがいくつか立っている。あとで飲み屋で聞いたところによると、これは向島にある日立造船の廃工場のクレーンで、去年からライトアップが始まったらしい。 これは珍しいな。なかなかのアイデアだ。 手前の海に映る 今日の宿は駅から徒歩2分の佐藤旅館、素泊まり3800円。6畳でまずまずの部屋だ。 荷物&だいだいを置いてすぐに夜の街へ。 飲み食いの前に、昼間見つけた千光寺山西側の寿湯へ。ここは営業時間が異様に短く、8時には終わってしまうからな。 予想通り、古くて静かでアッチッチの、いい湯だった。しかも貸切状態。因島の紅梅湯がぬるめだったぶん、ここで思い切りぬくもった。寿湯のレポートこちら。 (左)夜の寿湯、見えません (右)商店街にあった元銭湯、今はカレー屋 風呂上り、またまたほっこり。さあ、うまい魚を食わんとね。 中心部の飲み屋街へ向かって、立派なアーケードの「本通り商店街」を歩く。海と山に挟まれて東西2kmくらいに長く伸びている。でもこの時刻、人影はほとんど途絶えている。 久保あたりの飲み屋街へ至らないうちに空腹&喉の渇きに耐えられず、途中にあった居酒屋へ入ってしまう。ここも貸切状態だった。 ビール飲みつつカキなど魚介類を食うが、僕の舌に北陸で食った日本海の魚の味がまだ残っているためか、イマイチな印象。 でも30代の若い店長はなかなか楽しい男。そのうち常連客が何人かやってきて、なにかみんなで盛り上がってしまった。 常連客の一人は、1年前まで岐阜県に住んでいたが尾道にハマり、毎年何度も通ううち、とうとう去年から尾道に住むことになったという。現在、尾道フリークにはちょっと有名な某喫茶店の店長におさまっているらしい。 暖簾を閉まったあとは店のスタッフも一緒に参加し、日付が変わるまでミョーな飲み会が続いた。 何しとるんや 日本酒や焼酎でさんざん酔っ払って、宿へ帰る。 あ〜、よく足腰と肝臓を使った一日だった。 宿ではこいつが待っていた |
【続きの「呉・音戸編」はそのうち公開予定】 |
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