ふしぎ山
石灰山 せっかいさん
愛媛県上島町、219m


 尾道と今治を結ぶ、風光明媚なしまなみ海道。
 それに並行して、因島・土生港から転々と島々に寄港しつつ、しまなみルートの東の海上を今治までゆく船便がある。
 因島を出て最初に寄港するのが弓削島だ。船が弓削島に近づくにつれ、異様な岩山が迫ってくる。

 
中央の黒い十字のあたり

 
因島から弓削島へ

 旅を終えてから調べてみたら、石灰山という山らしい。名前からして、明らかに人間が石灰採掘のために削り取って、あのような奇怪な姿になってしまったようだ。
 そういう山は九州の香春岳をはじめ、いくつもある。だがこいつは風を切って海上に聳えているぶん、傷つきながらもどこか毅然とした姿に感じられる。

 今はすでに採掘はなされていないようだ。
 気になって夜も眠れないので、1年後に満を持して再び弓削島に向かった。

 
(左)いよいよ上陸だ   (右)港から北へ、せとうち交流館の左から山麓の道に出る

 
赤線が登ったルート

 ところでこの弓削島は地図で見る限り、トンボロ地形(陸けい砂州)を表している。つまり2つの島が潮流に運ばれた砂州によってつながり、その平地に人間が住み着いて町になった。
 俺はこんなページを作るようなトンボロ変態なので、今回は石灰山からこれを眺めることも目的だった。

 さて山麓の道を途中で左に折れて東行すると、やがて島の反対側(東側)の海が見えてくる。
 地形図を見ると石灰山は東側からスプーンカット状に掘削されているようだから、こっち側のどこかから掘削時に使った進入路があるはずだ。

 
(左)尾根を削って新設された道   (右)島の東側の海が見えてくる

 行き過ぎて少しウロウロしたが、たまたま通りかかった島民の中年夫婦に道を教えてもらい、無事に進入路を発見した。
 少し上がると掘削時代の小屋がある。それを過ぎても道はしっかりと続いている。

 
(左)ここから上がれるよ、と教えてくれた島民夫婦   (右)道にはこんな石灰石がたくさん落ちている

 道は何度かジグザグに折り返し、やがて掘削現場に到達した。山頂の南側が大きくえぐりとられた山肌は痛々しくも、どこかカッコイイ。
 しかし急角度のうえ削られた岩肌はもろくて、ここから直接よじ登るのは無理っぽい。

 
あそこが掘削現場だ

 楕円形にえぐられた掘削地帯の中心に立って観察すると、北側に聳える山頂部の断崖だけでなく、南側から西側にも掘削地帯を取り巻くように尾根が連なって、山頂部へと続いている。あれを伝っていけば登れるかも。
 そこで断崖の向かい側の尾根から時計回りに掘削地帯を半周しながら登ろうと考え、南側に残されたフチに取りついた。

 
(左)削り取られた山肌   (右)きついブッシュ

 だが削られた尾根は日当たりがいいぶんトゲだらけのつる草が繁茂し、進むのに難渋する。半分ほど進んだところで、それ以上の前進は断念した(下の地図Aの地点)。
 苦労して元へと戻り、今度は北側の断崖の根に沿って東尾根によじ登ることを試みたが、これも断崖に到達する以前にイバラに遮られて断念(下の地図B)。

 
(左)南尾根をまわりこんだが前進断念   (右)元に戻って、こっちからも無理

 
苦難の道マップ

 最後に残された道は、大きく東に迂回してトゲトゲの比較的少なそうな部分を突破し、東尾根の森の中を登るルートだ。もうこれしかない。

 
(左)上記地図C、あの森に入りさえすれば…   (右)わずかな距離なのになかなか進めない

 トゲトゲに絡めとられながらも慎重に足を運び、1メートル進むのに1分ほどかかるバトルを制して、なんとか森の中に転がり込んだ。
 暗い森の中はウソのように至極快適。滑りやすい急斜面だが、木の枝を掴んで腕力勝負でガンガン登る。

 
(左)よっしゃ来い!   (右)あっという間に高度を稼ぐ。右の石だらけ部分が掘削地帯

 森の中には赤テープがいくつかあった。やっぱりここから登った人がおるんやな。
 幅の広い尾根を外さないよう登っていくと、やがて掘削された断崖のフチに出る。油断すると危ない。
 そこからさらに急傾斜をよじ登ると、いきなり角度が穏やかになり、頂上部に達したことがわかった。森の中に入って10分かそこらしか経っていないだろう。

 
(左)崖っぷちに出た(上の地図E)。向こう側が掘削された断崖   (右)ゆるやかな頂稜。三角点もある(地図F)

 頂稜は南へ曲がり、そして突然にプッツリとガケ上になった。

 
おっとっとっと!

 そして俺の眼前に、この風景が展開した。



 幅は広いが、典型的なトンボロの町だ。美しい・・・。
 海を渡る春風に汗まみれの顔を撫でられて、上がりきったテンションが徐々に沈静してゆく。たった219メートルの小山だが、苦労したぶん感激もひとしおだ。

 帰りは往路を戻る。森へ侵入した場所を逃さないよう慎重に探し、そこからまたトゲトゲ突破に大いに苦労しつつ、なんとか脱出した。

 山から下りて、平和なトンボロの町を歩く。どのまちかどからも石灰山が見える。
 人に削られて岩肌をさらす石灰山だが、それでも人里を黙って見守っている。山は偉大だ。

 
弓削島の町から

(2014.4.2登)
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