ふしぎ山
嶽ノ森山 だけのもりやま
和歌山県古座川町、360m


 「日本の桂林」とも言われる古座川峡。そのシンボル・一枚岩の向かいで、ちょっとブキミに聳える山。上ノ峰と下ノ峰からなる。標高は低いが、その峻険な地形はナメてかかった人を陥れる。
 半年前の夏にナメてかかって登頂を拒まれた俺が言うのだから間違いない。ははは。

 というわけで季節は草木も眠る真冬。朝の6時半から青春18きっぷを使い、神戸から約6時間かけてリベンジに向かった。なにしろこの半年間というもの、こいつのせいでスッキリしない日々を送ってきたんだからな。

 前回同様、紀勢線の古座駅から一日2本のふるさとバスで一枚岩へ。そしてやはり帰りのバスまで2時間きっかりのタイムリミット。
 コースももちろん前回と同じくトンネル手前の「遊歩道」だ。もう迷わないぞ。

 勝手知ったるトンネル前、「遊歩道入口」の看板を通り過ぎてススキの原へ。ざまーみろ、さすがに枯れてやがる。しかも前回見られなかった踏み分け跡があちこちにあるぞ。
 植林帯へ入って黄色い鹿よけネットをくぐる。「←嶽ノ森」という看板で、矢印の方向に忠実に、沢の踏み跡に惑わされないよう左の斜面へ進むのよね。
 あれあれ、前回1時間もかかった斜面の登り口まで2分で着いちゃった。

 あとはもう、けっこう整備された登山道が続く。山腹を急傾斜で登ってゆくが、ややこしいところには赤テープもあって間違えようもない。何度か鹿よけネットをくぐる。

 見えにくいけど、鹿よけネットが道をふさぐ

 20分ほど登ると、念願のナメトコに到達。なるほど、これはおもしろい。スノボーのハーフパイプだな。
 大雨の日はどんなふうになるのか見てみたいもんだ。

 
ご親切にも岩にステップが刻まれている

 来し方を振り返る

 数百メートル続いたナメトコを通過すると、またもや樹林帯に入って急な登りとなる。やがて尾根に出ると天柱岩方面への分岐があり、もう少し進むと一枚岩への分岐。下山時はここからか。
 最後の岩場をロープをつかんで登り切ると、ついに頂上だ。登山口から40分くらい。四方に雄大な紀伊山地の眺望が広がる。
 いやー、前回屈辱にまみれただけに感無量だわ。汗を拭きつつ、しみじみ・・・。

 
(左)もうすぐ頂上なケハイ   (右)けっこう広い山頂、リュック左の小さな祠はカラッポだった

 
(左)すぐ前に下ノ峰   (右)北には累々と続く紀伊半島の山々

 ところで、嶽の森山は上ノ峰(雄嶽)と下ノ峰(雌嶽)からなる双耳峰だ。今いるのは上ノ峰で、正面に下ノ峰へと続く道がある。時間的には大丈夫そうだし、行ってみよう。
 どうせまたここへ戻って来るわけだから、リュックは置いて空身で行くことにした。

 下ノ峰へはいったん鞍部まで下って登りなおす。しかしどこまで下りるのよせっかく登ったのに。あとで登り返すことを考えるとウンザリするような急坂をやっと下りきったところに・・・!

 一枚岩への下山道がある〜(涙)。

 あるんならあると、はよ言わんかい! しかもここから下りるほうが、頂上手前にあった分岐からより早そう・・・畜生、リュック置いてくるんやなかったよ〜。
 泣きながら下ノ峰へと登る。こっちのほうが岩場が多いし痩せている。

 
(左)上ノ峰と下ノ峰の鞍部から見上げる下ノ峰   (右)巨人の顔に見えると言われる巨岩

 オーバーハングした巨岩の背後に回りこみながら登ってゆくと、またカラッポの祠があって、そのすぐ後ろが下ノ峰の頂上だ。上ノ峰から10分ほど。
 頂上は細長く左右に伸びる岩のエッジになっている。そこへ一歩近づくごとに姿を現す上ノ峰の姿がすばらしい。エッジにまたがると、お尻ひょわぁ〜の高度感。
 上ノ峰の頂上は狭いながらも面だったが、こっちは線だ。そして下はスパーンと断崖。

  
(左)お?   (中)おぉ!    (右)おおお〜!  (すみません、いったん戻って撮ったヤラセ写真です)

 
(左)あのてっぺんまでリュック取りに戻るのね・・・   (右)先端の岩にまたがって俺最高

 さてと。リュック取りに戻るとするか。またもや鞍部までいったん下りて、さっきの激坂を登りなおす。ぐひ〜、この登りが今日いちばんキツイ・・・。
 ふたたび10分、2度目の上ノ峰登頂で汗ボトボト。
 石に座り込んでパンを食っていると、真上をトンビが4羽ほど旋回している。そのうち1羽と目が合った。俺のパンを狙っているのだな。やるもんか。

 さてと。バスの時間まであと45分、そろそろ下りよう。
 またもや下ノ峰との鞍部へと下る。この半時間ほどでこの道を通るの3回目・・・。

 鞍部の分岐点には鹿のフンがたくさんある。そこから真新しいロープにつかまって急斜面を下り、あとは杉の植林帯をジグザグに下ってゆく。
 植林帯の北側には嶽の森山南面の大岩壁が終始そびえていて、すごい迫力だ。

 これは数年前に整備されたとみえる新しいルートで、はじめのうちはわかりやすいが、しばらく下ると階段状に組まれた間伐材が朽ちてきており、道も落ち葉に埋もれて判然とせず、早くも山に還りかけている場所が散見される。このままあと2年もすりゃ道はほとんどなくなりそう。
 この地方は屋久島なみに雨が多いから、登山道を維持するのもたいへんに違いない。

 
(左)鞍部から一枚岩へ下る道   (右)嶽の森山南面の大岩壁

 もっとも、このルートは終始杉の植林帯なので、登りに使うにはナメトコルートに比べて面白みがない。下りに使うのが正解だろう。
 30分で国道脇の登山口に出た。バスが来るまで、一枚岩ビジターセンターで柚子ドリンクを飲んでくつろいだ。

 
(左)よく枝打ちされた杉林をひたすら下る   (右)一枚岩登山口、看板は新しいが道は早くもヤバイ

 まあ何はともあれ、今度こそきっちり登れて満足だ。これで枕を高くして眠れるぞ。 (06.1.19)
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