|
||
列車の窓から外をぼんやり見ていたら・・・あれっ! あの山、見覚えがあるぞ。 せっかく群馬くんだりまで来てるのに、今にも降りそうな空の色、西上州の山は深い霧の中。仕方がないので温泉でも行くか、群馬といえば草津よいとこ一度はおいで〜ドッコイショだ。 ちゅーわけでJR吾妻線に乗って草津方面へ向かっていたら、正午前、車窓にこの山が見えた。たしかネットか何かの写真で見たよ。どこの何山か忘れたけど、三つの角があって、カブトガニを正面から見たような形・・・こんなところにあったのか! で、ちょうど停まった中之条という駅で急きょ下車。けっこうちゃんとした有人駅だ。 構内にこの町のパンフ類が置いてあり、そこをあさって「嵩山」という案内パンフを見つけた。これだな、たけやま、と読むのか。死者の魂が集まる霊山として昔から信仰が篤く、ハイキングコースもあるんだと。三つの角は、写真の右(東)から大天狗・中天狗・小天狗と名づけられているようだ。 パンフには「駅から登山口まで徒歩1時間、バス15分」とある。バス乗り場へ行ってそのへんの運ちゃんに聞いたら、そこへ行くバスがあと10分ほどで来ると言う。本数少ないのにラッキー。 駅横の跨線橋から バスの時刻まで、駅横の跨線橋に登って周囲を眺めた。 中之条という町はどうやら吾妻郡の中心地のようだ。四囲を山に囲まれた盆地だが、その真ん中で町を見守るように、このカブトガニがカポッと伏せている。なんとなくユーモラス。 12時7分のバスに乗り、親都(ちかと)神社で下車。20分も乗ってないのに400円とはボッタクリじゃないの。 バスを降りるといきなり目の前に嵩山が迫り、その中腹に巨大な岩が聳えている。麓一帯は「ふるさと公園」として整備され、そば打ち体験館なんかがある。 (左)親都神社の大ケヤキ (右)パンフによると「男岩」 登山口は2本ある。ここは正々堂々と表登山口から登ろう。 そば処の左横の鳥居が入口だ。それをくぐって石段を登ると、「岩登り禁止」の看板がある。まあそうでしょうね、こういう信仰の山を人工登攀の練習台にしたらアカンでしょう。 (左)表登山口の鳥居 (右)岩登り禁止の看板 この看板で石段は終わり、あとは山道になる。 登山道はカエデなどの緑が美しい森の中をジグザグに登っていく。秋にはたいそうきれいだろうな〜と思うものの、今日はとにかく気温30度以上、湿度が99.9%、森の中は無風で不快指数が1億くらいあるもんだから、ほとんど苦行。ていうか俺こんなとこでナニやってんの? やがて道は岩がちになり、バス停からわずか15分ほどで三つの角を結ぶ稜線に出た。天狗平というところで、東屋がある。そこを左へ、まずは小天狗に向かう。 (左)美しいカエデの林を登る (右)稜線に出て、小天狗への岩場 岩場のひと登りですぐに小天狗到着。祠のある岩のもひとつ先が頂上だ。てっぺんは2人ほどしか居られない狭さだが、360度の展望が全面展開する。これは素晴らしい。 だが、すぐ近くに雨雲というか湿度100%の霧のカタマリが押し寄せてきていて、遠くの山はもちろん盆地の向かいも全然見えない。こりゃゆっくりしてたら降ってくるぞ。 とはいえ頂上を吹く風に、湿度と汗でべっとべとの体が癒される。パンを食ってしばし休憩だ。 (左)小天狗の岩上には片流れの祠が立っている (右)小天狗から中之条の町を見る 小天狗の祠越しに中天狗・大天狗 1時ちょうどに小天狗出発。東屋へ戻り、こんどは中天狗へ稜線をたどる。 と、たったの5分で中天狗に着いちゃった。このピークは樹林に覆われていて展望はあまりなし。 (左)尾根筋の巨岩、こういう場所には必ず祠がある (右)中天狗頂上、向こうは大天狗 中天狗から少し進むと、御城の平と呼ばれる場所に出る。ここにはかつて城があったらしい。石仏がコの字型にずらっと並んでいて、ちょっとした異空間だ。 (左)御城の平 (右)さまざまな顔の石仏が並ぶ (左)カネにこまかそう? (中)3日に1回しか風呂に入らなさそう? (右)やたらと美男子、でも神経質そう? そこを過ぎるとやがて岩尾根が現れる。傾斜はさほど急でなく手がかりも十分あるが、鎖が延々と設置されている。 ここまで全面設置されてしまうと山歩きとしての面白みは半減だが、地元ではポピュラーな信仰の山だから祭時には大勢の人が登るのかもしれん。仕方ないね。 岩が濡れているときには、鎖がないと危ないだろう。 (左)鎖 (右)ずうっと鎖 (左)さらに鎖 (右)大天狗の頂上へは右端の鎖で 最後は二つの大岩を鎖でよじ登って大天狗の頂上、中天狗から10分ほど。 ここもまた2〜3人しか居られない狭さだが、360度のすばらしい大展望だ。でも、湿度100%の霧がますます迫ってきたよ〜。 (左)ほとんど見えなくなった中之条盆地 (右)西側にはちょっと不思議な段丘上の田園 北側のゴルフ場 戦国時代には、この山に篭城した上杉方が武田の軍勢に攻められたあげく、城主や家来はここから飛び降りて死んだらしい。濃い歴史よのお。 それにしてもヤバイ天気。雨が降ったら岩場は危ないし、俺も死なないうちにとっとと下りよう。 こんなに鎖を設置してしまったらどうとか言ってたくせに、その鎖をフル活用して猿のようなスピードで岩場を降り、東登山道から下る。こちらは表登山道より見晴らしがいいし傾斜も若干ゆるそう。こっちから登ればよかったな。 途中、迫力のある岩壁が現れる。岩の隙間から水がチョロチョロと出ていて「一升水」と名づけられているが、岩壁は10mほど上で大きく逆傾斜し、完全に道に覆いかぶさっている。岩の一部は白化していて異様な雰囲気だ。死者の霊魂が集まる山と言われたのもうなづける。 この山には他にも胎内くぐりとか岩穴などがいろいろあるようだが、雨に降られるのが嫌で全部パスした。残念。 (左)一升水の岩壁 (右)真上を見上げる。いかついヒサシ 杉の木ごしに見る一升水 なんとか雨にも遭わず、大天狗から25分ほどで下りてきた。 おっと、ここから見ると、最初に見えた大岩が「男岩」と呼ばれている理由がわかったぞ。なるほどね。で、隣に対になって女岩があるわけか。 (左)左が男岩、右は大天狗直下の女岩 (右)バス停の前のそば処 バスを待つ間、そば処「けやき」で手打ちそばを食ってビール。なかなかうまいそばだった。店の人に「このへんはそばが名物なんですか」と聞くと、「いや、そういうわけでもない」そうな・・・。 帰りのバスはすさまじく遠回りして、40分以上もかけて駅へ戻った。乗客は俺一人、どんどん回る料金表に激しく不安を覚えたが、駅に着くと往路と同じ400円になっていて一安心。でも乗りたかった列車に間に合わず、残念ながら草津まで行く時間はなくなっちゃった。 旅の途上で一期一会の出会いとなった嵩山は、抜群の展望や霊気漂う岩場めぐりなど、親子揃って楽しめる手ごろなプチふしぎ山だった。秋の好天日に登ったりしたら、きっとファンタスティックな一日を満喫できるでしょう。 まあ俺は登り始めて降りるまで1時間20分しかいなかったけど。くれぐれも真夏の湿度99.9%不快指数1億の日に登らないようにしましょう。わかってるって? あっそ。確かにこの日は終始誰にも会わなかった。 (06.8.26) |
||
「ふしぎ山」トップ<ホーム |