チープ&ディープな男の旅路・県庁所在地シリーズ

徳島

---味気なく大河に抱かれよ---

(2003.12.12〜13)



 よく考えてみたら、西日本の県庁所在地で行ったことがないのは、那覇・佐賀、そして徳島であることに気がついた。
 那覇と佐賀は遠い。しかし徳島は、明石海峡大橋ができたおかげで三宮から高速バスでわずか1時間50分、往復5700円で行けるようになった。
 まさにチープな旅先にふさわしい。今、時代は徳島なのである。徳島といえば阿波踊りである。でもそれは夏だ。今は冬だ。冬の徳島・・・。

【前編(1日目)
歩いても歩いても---徳島駅から南へ
入るな来るな---日本一くちうるさい銭湯
女子大生シェイカー---徳島の夜

【後編(2日目)はこちら】

 歩いても歩いても---徳島駅から南へ

 明石海峡大橋の上でバスは左右に振られていた。すごい強風だ。
 淡路島を縦断したバスは大鳴門橋を渡って四国へ上陸し、まもなく徳島駅へ到着。
 地方都市にしては意外に立派な駅だ。とりあえず駅から正面に伸びる広い道を進む。真ん前に眉山(びざん)がそびえていて、街の景観としてはなかなか素晴らしい。

  
 (左)やたら立派な徳島駅。やしの木が南国ムード  (右)正面に眉山

 徳島駅周辺は、吉野川下流の分流・新町川と助任川に挟まれた「ひょうたん島」と呼ばれる中州になっている(実際にはゾウリムシの形)。そこから橋を渡って「四国本島」へ上陸する。新町川沿いはボードウォークふうに整備されている。

  新町川に面した橋袂公園

 さて、まずは眉山に登って街を眺めようと思っていたが、北風ピープーでそれどころじゃない。中心商業地らしい新町商店街のアーケードへ逃げ込む。

  こぎれいだが賑わいは今ひとつ

 しばらく商店街を歩く。クリスマスの飾り付けがなされていて明るい雰囲気だが、ちょっとさみしいな。
 商店街を出て、眉山のふもとにある瑞厳寺へ。瑞厳寺といえば「松島ぁ〜のぉ〜」なわけだが徳島にもあって、「心頭を滅却すれば火もまた涼し」で有名なナントカ和尚の寺だとか。

  
 瑞厳寺はこじんまりと落ち着いた風情の寺

 そこから、とりあえず南へ歩く。徳島って、中心市街地に目立った観光ポイントがないのね・・・。
 無目的に歩き回っても疲れるだけだから、こういう場合、僕は銭湯をチェックポイントにしている。事前に電話帳などで銭湯を調べて地図に印を入れておき、それを目標に歩く。銭湯周辺は味わい深い下町のことが多いからな。
 でも徳島市には銭湯も少ない。徒歩圏内に5軒くらいか・・・ちょっとヤな予感。

 瑞厳寺から二軒屋町の銭湯まで1.5kmほど南下し、そこから東に少しずれて2軒の銭湯を経由しつつ再びゾウリムシ島まで北上したが、どうも街並みがそっけない。普通の地方都市と同様に寺や神社はたくさんあるのだが、なぜだか街自体に城下町らしい風情がまったく感じられないのだ。どの道も広く直線で、路地が見当たらないせいかもしれない。

 
 観音寺。なにやら屋根がド迫力。だが周囲の街並みが淡白すぎて文化遺産が孤立している

 数少ない銭湯も、特にどうということもない、ごく普通のたたずまい。タッタカ歩いて汗ばんできたのでそろそろ入りたいが、旅情をくすぐるような、「ここ!」というところがないなあ・・・。



入るな来るな---日本一くちうるさい銭湯

 さらに歩いて、徳島駅の東方1kmちょっとのところにある徳島温泉へ。「注意書きの張り紙が異様にたくさんある」ことで、地元の一部で話題の銭湯のようだ。
 そんな銭湯はあまり好きではないが、まあ話のタネに入ってみるか。

  つくりは徳島市内の銭湯では最も昔ながら

 見た目はこじんまりとした下町系だが・・・とりあえず暖簾をくぐると、白いプラスチック板に丸ゴチックの黒文字。
 「入浴前に必ず風呂銭いただきます」
 いきなりこうきた。挑戦的である。
 靴を脱いで戸をあけると、脱衣場の正面のものすごい2文字が目に飛び込んでくる。

 「禁煙」

 驚かされるのはその大きさだ。1文字の1辺が50cmくらいある。
 銭湯料金は250円。地方は安いなあ。番台のバアサンに支払ってフト見ると、脱衣場の板張りの床に白い巨大ステッカーがナナメに貼り付けてある。
 「脱衣場をぬらす人おことわり」
 床に直接注意書きというのははじめてだ。
 尿意を催したのでトイレに行こうとしたら、トイレの戸にこうある。
 「トイレをよごす人の使用おことわり」
 おそるおそる戸を開けてみた。
 「自分の出したものはきれいに流してから出てください」
 「トイレをよごす人 はいるな来るな」
 「あとが使えん 入るな来るな」
 「禁煙」

 もう壁が見えないくらいにビッシリと貼ってある。しかも手書きではなく、すべてプラ板に活字を印字してあり、看板屋に作らせたものだ。しかも文字がいちいちでかい。これほど緊張しながら小便したのは初めてだ。

 そして浴室へ。
 で、でたあーー。
 浴室自体はこじんまりとして、細かいタイル張りの浴槽がコンパクトにまとまった僕の好きなタイプなのだが、そんなことより予想をはるかに上回る、狂ったような注意書きの嵐。
 「小便する人 はいるな来るな」
 「1時間以上の入浴おことわり」
 「シャワーの出しっぱなし おことわり」
 「水風呂にもぐる人 はいるな来るな」

 いずれも1文字300ポイント(1辺10センチ程度)くらいある。もはや「客はすべて敵」状態。カラン上部にはシャワーがついているが、そのすべてのシャワーとシャワーの間に、
 「シャワーの出しっぱなし おことわり」
 「シャワーの出しっぱなし おことわり」
 「シャワーの出しっぱなし おことわり」
 「シャワーの出しっぱなし おことわり」

 と、もれなく板が取り付けられていて、これでもかこれでもかとすさまじい気迫で客を威嚇する。
 極めつけはこの注意書きだろう。
 「常識以上の入浴おことわり」
 最も常識はずれな人間ほど他人の常識を云々するものだ、との教訓がここにある。

 隅にガラス張りの小さなスチームサウナがあった。手前に引いて開ける戸を開けっ放しにされないよう、内側から取っ手を白いゴムで引っ張って、手作りの半自動開閉ドアにしてあるようす。あまりに野暮ったい。しかしそのドアには例のプラ板が取り付けられ、こう書かれている。
 「むし風呂は汗を流すところです。ゴムをはずしたり切ったりする人おことわり」
 こんなのをわざわざ看板屋に作らせるくらいなら、そのドアのゴムをなんとかしたらどうなんだ。
 しかしもうこうなると、中に入るのがなんだか楽しみになってくる。きっと期待に応えてくれるだろう。ニヤケつつ入ってみると、湯気の中、見慣れたプラ板が見えてくる。今度の文字も特大だ。
 「たん、つば吐く人 はいるな来るな」
 「小便する人 はいるな来るな」
 「敷物めくれん」

 こうまで書かれると逆にこの銭湯のあるじに挑戦したい気分になってくる。敷物をめくったら一体どうなってるんだ? めくりたい〜。たん吐きたい〜!

 それにしても落ち着かない。間違いなく日本一くちうるさい銭湯だろう。くつろぎ感ゼロ。
 しかしそれでも客はそこそこ入っていた。みんな気にするふうでもなく、普通に入っている。慣れればなんてことないのだろうか。
 脱衣場の隅に、モニターが据え付けられていた。外の駐車場をカメラで監視しているようだ。こいつで車を監視し、1時間以上駐車している客には「入るな来るな」のプラカードを突きつける算段なのだろう。
 20円のドライヤーの料金箱にはこう書かれてあった。
 「通らないコインおことわり」


女子大生シェイカー---徳島の夜

 さて、風呂にも入ったし、日も暮れてきたな。
 いったん「ホテル野上屋」へチェックイン。ネット予約で4000円の安宿だが、通された部屋は10畳+洗面室+窓際の板の間スペース3点セット、トイレは便座ヒーター付きウォシュレット、夕刊投げ込みサービス、全室LAN接続、大浴場は24時間OKと、大当たりの宿だ。思わずエレベーターに乗り合わせた従業員のおばちゃんに礼を言ってしまった。

 荷物を置いて、すぐに夜の街へ。繁華街は富田町・秋田町あたりを中心に、けっこうな面積で広がっている。風俗街は栄町・鷹匠町と、これも徳島の街の規模の割に大きいような感じ。
 あちこちウロウロしたが、しかしここでも、飲み屋街の風情というものが感じられんのだな。店構えはそれなりに意匠を凝らしていたりするが、なんとなく道路に沿って漠然と店が並んでいる。

 徳島は「阿波尾鶏(あわおどり)」という地鶏が名物らしいので、とりあえず1軒目は焼き鳥屋でそれを食す。うむ。プリッとしてジューシー、うまいね。でもこの店は、オールディーズのBGMを流しながらテレビもつけてたり、座席の配置などセンスがダメ。
 次は魚だな。和風の創作系居酒屋へ。忘年会グループなどで大繁盛。イワシの天ぷら、酢ガキなどがうまかった。とくに殻つきの酢ガキはプリンプリンでヤタラウマ〜。徳島の地酒やスダチ酎も呑む。

 もうお腹はいっぱいだが、外へ出たら寒くて寒くて、ついもう1軒。和洋折衷系バー。こちらも座敷は忘年会グループで、カウンターは僕一人。チビチビ呑みながら、なんとなく友人に電話して「徳島は退屈な街やぞ」などと報告する。
 電話を切ったら、カウンター内でシェイカーを振っていた若い女性が「徳島は初めてですか?」と話し掛けてきた。じつは彼女は目のキリっとしたカワイコちゃんだったのだが、単独の一見客である僕としては変なふうに思われたくないというような意識が働いて、できるだけ見ないようにしていた。
 「うん。一人で観光旅行。で、明日はどこに行ったらいいでしょう?」
 「なにもないでしょう、徳島は・・・どちらからですか」
 「神戸です」
 「え、ワタシも実は神戸なんですよ」
 彼女は徳島大学の総合科学部2回生で、去年神戸から来たばかりだという。街の活性化などを専攻し、卒業後は自分の店を持ちたいと考えているそうだ。
 その後、いいトシこいてその女子大生とずいぶん話がはずんでしまった。鳴門のワカメとかいろいろサービスしてもらい、「そうか〜やっぱし反抗期は父親にハラ立ちましたか〜」などと嬉しそうにくっちゃべって酒もどんどん呑んで、忘年会の客が全員帰ってからゆっくり会計してもらったら、たったの2000円ちょい。
 なんかトクしたよーな感じだなあ〜と幸せ気分の41歳小市民、それが俺だ俺なんだ。

 寒風吹きすさぶ街を歩いてホテルに帰る。
 布団に寝転がって何気なくテレビをつけたら、加州知事様主演の「ジングル・オールザウェイ」とかいうクソバカ映画をやっていて、気がついたら最後まで見てしまっていた。そのあと爆睡。

      (今回は万歩計を忘れてきたが・・・たぶん10kmくらい)
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