関西の激渋銭湯
チープに極楽。生きててよかった!
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【山形県】の激渋銭湯
正面湯 (鶴岡市)★
いしの湯 (東根市)

正面湯(湯田川温泉)

鶴岡市湯田川丙64 →地図
【電話】 0235−35−4068
     (湯田川温泉観光協会)
【営業時間】 午前8時〜9時
         午前11時〜午後7時
【定休日】 年中無休
【入浴料金】200円


 山形県は温泉が豊富にありすぎるせいか、一般銭湯はほぼ絶滅状態らしい。仕方がないので温泉へ。どう、この順番。

 焦げるような猛暑の鶴岡駅からバスで30分、湯田川温泉は町外れの山すそに湧く、こぢんまりとした温泉街だ。
 バス停のすぐ手前にこの共同湯がある。この地方に多い、ピカピカ黒瓦を乗せた堂々たる伝統建築にホレボレしちゃう。

 
うちの近所にも1軒ほしい

 外来者は近くの商店で入浴料を支払い、鍵を開けてもらうシステム。近所の人は、若いにいちゃんが上半身裸で自転車こいで入りに来るような地元密着温泉だ。

 中に入ると狭い脱衣場があり、服や荷物はタナの籠に入れとくだけ。
 すぐ前の浴室は、中央に飾り気のない5〜6人サイズの四角いタイル張りの湯船があり、横っちょにカランが3つほどあるのみのコンパクトサイズだ。
 タイル等は新しくて、レトロな風情はない。でも湯船のへりからはお湯がかなりの勢いで溢れ出ている豊饒の光景。たまらん。

 さっそくかかり湯をして湯に浸かる。
 む。むむ。むむむ。むむむむむむむ・・・。こここここれは・・・!

 無色透明無味無臭、そして適温。何のクセもないフツーといえばフツーのお湯だけど、このお湯の新鮮さ、なめらかさたるやもうアンタ、ただごとやない。ナトリウム・カルシウム-硫酸塩温泉ちゅーことだが、なんとなく四国の道後温泉にも似た感じ。
 まったりーのさっぱりーのしっとりーのセニョールセニョリータ。これ、とんでもない名湯でっせ。うはははは!

 壁の表示によると、世に源泉掛け流し温泉数あれど、ここはその新湯注入率すなわち新鮮さにおいて他を圧倒するピチピチ温泉やっちゅー話。
 石でできた湯口からは常にドーっと源泉が注ぎ込まれている。それを首筋から肩で受けて・・・むは、むは、むはへほはへほおお〜!

 真夏の昼間、4人ほどの他客もゆっくりと湯を味わっている。俺も浸かったり、休んだり、水をかぶったり、また浸かったり・・・を繰り返した。
 もったいなくてなかなか上がれない。

 ただでさえ猛暑の日だったのに、長湯したおかげで汗がひかず、拭いても拭いてもTシャツを着れやしない。
 上半身ハダカのまま外へ出て、道路の向かいにある足湯のほとりでしばらく体を冷ました。
 恐ろしいほどの極上温泉、ここにあり。
(2010.8.8)
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いしの湯 (東根温泉)

東根市温泉町1丁目22-5 →地図
【電話】 0237-43-2201
【営業時間】 8:00〜20:00
【定休日】 6のつく日
【入浴料金】200円


 東根温泉にはけっこういくつも共同浴場があるみたいだが、事前に調べたら、いしの湯というのがダントツ渋そうだ。
 で駅からトボトボ歩く。意地悪くけっこう離れてるのよね。目指す湯は東根温泉街の南東の外れにある。

 
(左)農道で近道  (右)誰かの家…と思ったら

 農道を突っ切って突き当った道路を左折すると、フツーの民家に「公衆浴場いしの湯」という看板が上がっているのが見えてくる。
 手前に母屋があり、奥まった部分に風呂があるようだ。

 
(左)風呂屋らしい  (右)激郷愁風景

 玄関を入る。まるっきり田舎の家。だって正面の居間で子どもがランドセル下ろして宿題やってるもん。
 「すんません、お風呂入れますかー」と声をかけるとおかみさんが出てきて、200円を徴収される。
 左側はすでに一家だんらんが展開中のため、右側へと廊下を進む。すると「男湯」と書かれた小部屋がある。

 
(左)誰かの家  (右)小部屋の中は脱衣場だ

 白いロッカーが4つ。ここで服を脱いで戸を開けると・・・。

 
(左)ひたすら渋い  (右)上等の湯だ

 小さな浴室! ほとんど一人分。
 丸い石を石垣のように組んだ壁がなんとも味わい深い。床も石張り。なるほど、それでいしの湯なんかな?
 湯船の左手前に四角いマスがあって、源泉がここから少しずつ湯船へ投入されているようだ。

 かすかに緑がかった透明なお湯をさわると・・・むむ、熱い! けっこうな熱さやけど慣らせば入れなくもないぞ。
 じわじわ慣らして、何度かに分けて浸かる。うむー、クセのないまろやかな湯だ。ほのかに甘い香りか・・・お湯の中には湯の花も舞っているぞ。
 それにしてもこの熱さだと、夏場は厳しいかも。今の時期がちょうどやな。

 狭い空間でお湯とたわむれていると、知らん間に時が過ぎゆく。列車の時刻をいちおう確認しておこう。
 ところが上がってからは、この部屋が待っていた。

 
(左)最高級の休憩室  (右)休憩室から玄関方面

 8畳ほどの広間に、テーブル一つと、ダークローズ色の片肘ソファひとつ。俺のためだけに用意されたプレミアム空間だ。だって他に誰もおらんし。
 このくつろぎ部屋を見た瞬間、列車を1本遅らせた。そしてこの特等室で、贅沢な片肘タイムを小一時間過ごす俺であった。

 郷愁感に満ちた古い民家について、「おばあちゃんの実家に帰って来たような」という例えがよく使われる。でもここではそれが「例え」ではなく、当たり前の「事実」に過ぎない。
 つまらないモヤモヤも一瞬で全部関係なくなる、ある種パワースポット的なミラクル公衆浴場だ。ていうかフツーの民家だ。  
(2014.4.9)
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