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 激シブの薩摩半島南端をディープ&チープに歩く
(2003年5月1〜6日)

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【第3章】怒涛の南薩3日目
 開聞岳山頂で空を飛ぶ
 かいもん荘で昇天する
 伏目の砂蒸しで力尽きる
 指宿元湯で使い切る
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指宿・東郷温泉にて

 開聞岳山頂で空を飛ぶ

 くりや食堂の朝食は朝7時から、250円でご飯・味噌汁おかわり自由らしい。
 食いたかった。しかし食えなかった。JR九州のフザケたローカル線ダイヤのせいだ。

 この日は指宿西方にそびえる日本百名山の一つ開聞岳(かいもんだけ)に登り、そこから海岸線に沿って延々歩いて山川駅まで戻る、という予定を立てた。途中にナイスな温泉がいくつも湧いている。けっこう強行軍なので、早く出発する必要がある。
 山川駅から、開聞岳のふもとの開聞駅(揖宿郡開聞町)まではまっすぐJRが走っている。駅は5区間11km。で、時刻を調べてみた。

 6:29
 13:32
 17:20・・・

 お、お、おいーー!!
 この指宿枕崎線というのは、西鹿児島から山川まではほぼ1時間に1本の列車があるが、そこから終点の枕崎までは1日6本、しかも午前中は6:29の1本のみだと!
 山川駅は「日本最南端の有人駅」なのだった・・・。「こっから先はどうでもええけん」(JR九州談)。

 そんなわけで、くりやの朝食は食えず、6:29の列車に乗る。当然ガラ空き。
 しかし車窓からの景色はよい。昨日買っておいたパンを食いながら眺める。地熱発電所がもうもうと湯気をあげている。「日本最南端の駅」西大山駅を過ぎると、「日本一完全な円錐形の山」開聞岳がぐんぐん近づいてくる。

 盛り土ホームだけの開聞駅で降りたのは我々以外に4人ほど、すべて単独の登山者だった。
 正面にそびえる山に向かって、ゆっくり歩き出す。開聞岳は薩摩富士とも呼ばれる。標高924mとたいした高さではないが、この山は全身の半分以上が海に乗り出していて(昔は「海門岳」と書いたらしい)、その根元からしっかりと歩かされる。こんな山です(開聞町HP)。
 円錐の角度が急なため、登山道はらせん状に山腹を回っていくのが特徴だ。半分くらいまでは樹林帯を登るので眺望はきかない。

 3合目あたりにベンチがあり、50代後半くらいの男4人組が休憩していた。
 彼らは、ゆうべ静岡から車で走ってきたのだという。
 「指宿に着いたのが午前2時で、そこから祝杯をあげて寝たのが4時だよ。と思ったら明け方に酔いどれ女からの電話で起こされてさあ。ほとんど寝てないんだよね・・・」
 リーダー格のひげおやじは、トレーラーの職業運転手だという。でなきゃ無理だわな。
 「毎日長時間運転ばかりしてて、腰は大丈夫ですか」
 僕は自分が腰痛持ちだから、すぐ人にも聞いてしまう。
 「腰は大丈夫。フーゾクで鍛えてるから。ニヒヒヒ」

 彼らより一足先に出発する。途中で何組もの健脚に追い越されたが、丘は「あの寝てないおじさんたちだけには抜かされたくない」と言って、テクテク歩いた。
 5合目あたりから眺望が開け、東に指宿方面が見える。視界の右半分は海。今日の予定コースが全部見渡せる。
 はるか遠くの竹山を指して「今日はあそこまで歩くで」と言うと、丘は絶句した。

 やがて道が山の南側に回ると、視界はすべてが東シナ海となる。正面やや西に硫黄島が噴煙を上げ、その向こうに屋久島がかすんでいる。
 ここはまさしく本土の果てなのだな。

 7合目からは岩場となり、ロープづたいのところも出てくる。下山してくる人たちとけっこうすれ違う。早くからたくさん登っているなあ。
 さらに登ると眺望は西側へと移り、枕崎方面の海岸線がはるか遠くまで見渡せる。
 そこから道は北側に回り、九州最大のカルデラ湖である池田湖が目の前に来る。
 なかなかおもしろい山だ。
 
 歩き始めて2時間45分、ちょうど10時に岩だらけの頂上へ着いた。すでに30人くらいの人がいる。
 頂上からは、360度の大パノラマだった。その半分以上が海で、しかも傾斜のきつい円錐形のてっぺんだから、景色はどの方角も、まるで空中写真を見るようだ。
 体の向きを変えるたび、陸へ海へ、自由に空を飛んでいるみたい。
 こんなに気持ちのいい眺望の山はそうそうないだろう。

 かいもん荘で昇天する

 20分ほど休んで、来た道を下山する。飲み物がもうほとんど残っていない。
 岩場が多いため、下りはけっこう気を使う。
 どんどん人が登ってくる。道を譲るのに忙しくてなかなか降りることができない。軽く100人はすれ違ったろう。人気のある山なんだねぇ。
 しかし、これだけの人数があの狭い頂上に納まるとは思えない。何人かは端っこから滑落しているのではないか。

 途中で水がなくなり、丘がバテてきた。僕の半分以下の速度。思わずイラつく。
 3合目あたりで元来た道と別れ、東側の山麓自然公園のほうへ降りる。荒れた道を少し行くとすぐに公園のゲートがあり、そこから延々と舗装道路を下る。
 セミが鳴きまくり、汗びっしょり。丘と2人で、「じどうはんばいき〜じどうはんばいき〜」とうめきながらヨタヨタ歩く。

 1時15分、やっとこさ自動販売機を発見した。丘とともに「バンザーイ!」三唱。
 それぞれ500mlを一気に飲み干し、2本目を買って、海の見えるサボテン園の芝生で休憩する。人はほとんどいない。
 開聞岳から長崎鼻、竹山方面と、これから歩く予定の海岸線が一望できて、じつに気持ちがいい。やっぱ太平洋って、瀬戸内海とは雰囲気が全然違うなあ。
 この自然公園にはトカラ馬が放牧されている。トカラ馬は小型の愛らしい馬で、アイスランドポニーよりもカワイイ。
 自然公園の出口ゲートで、大人350円、小人200円を徴収される。こっち側に下山したらこの公園を通過せざるをえないんだがなぁ。

 幹線道路を歩いて、2時15分に国民宿舎かいもん荘に到着。壁などがハゲ落ちた、かなりボロっちい国民宿舎だが、事前にここの露天風呂は素晴らしいとの情報を得ていた。
 大人300円、小人200円。地味で熱めの内湯を抜け、さっそく露天風呂へ。
 いやー、ここはまた、す、すばらすい〜。
 まず耳に入るのは、「ザザー、ザザー」という波の音。露天風呂の外側は砂浜だ。で、右手にデデーンと、今登ってきた開聞岳がそびえている。

 浴槽は長方形のが2つ。大きいほうには濃いオレンジ色の食塩泉、小さいほうには透明の単純泉が満ちていて、どんどん掛け流されている。オレンジ色のほうは59度だが、広い露天で適温に冷めている。透明のほうは32度と、ひんやりしている。
 ここは地名から「川尻温泉」と名付けられているらしいが、ほぼ同じ場所から、まったく異なる2種類の温泉が湧き出ているのですね。

 山歩きで疲れた体をオレンジの熱い湯に静めながら、日焼けでヒリヒリする腕だけ隣の冷たい湯に突っ込んで、開聞岳をしみじみ眺める。
 「おい、丘、さっきまであのてっぺんにおったんやで・・・」
 「信じられへんわ・・・」
 のぼせてきたら、冷たいほうに全身浸かる。冷えたらまた熱いほうへ。太平洋の波の音ザザー、ザザー。向こうに見えるは硫黄島の煙。

 正味、極楽なのである。にょほほほ〜。

 客は他におじさん2人だけ。宮崎から来たという。
 「宮崎にも来てよ。シーガイア半額になってるから」
 「シーガイアはひどい赤字だそうですね」
 「赤字なんてもんじゃないよ、もう・・・」
 我々がこれから山川町の砂蒸し温泉まで歩くと言うと、「あそこは4時か5時で終わっちゃうよ」と言う。やばい、あまり時間がない。かといってそこへ行く交通機関もない。
 あと1時間くらい熱い湯と冷たい湯を出たり入ったりしていたかったが、泣く泣く切り上げて3時にまた東を向いて歩き出した。

 伏目の砂蒸しで力尽きる

 そういえば僕は、朝に列車の中でパンを食ったきりだ(丘は頂上で残りのパンを食べていた)。
 でも、このあたりに店などは皆無。海岸側は松林、内陸側はタバコ畑やサツマイモ畑が延々続く。仕方がないので、おかきや飴などでしのぎつつ歩く。

 開聞温泉(時間の都合で断念)の近くで幹線道路から外れ、内陸部の生活道路を行く。海は近いのに、シラス台地の上なので海岸沿いという感じはしない。浜児ヶ水(はまちゃがみず、と読むらしい)集落では、火山灰を固めたようなブロック塀に囲まれたあちこちの庭で、ビワの実がたわわに実っている。

 目指す砂蒸し温泉(伏目温泉)は、竹山という奇異な形の山すその海岸にある。丘は竹山を「ヒトコブラクダ山」と命名したが、その首の部分は標高202メートルもある巨大な岩塔だ。
 歩くにつれて正面の竹山がじわじわと近づき、振り返るたびに開聞岳が遠くなる。この2つの大きなランドマークに挟まれた地域(東西8〜9km)では、迷子になりたくてもなれないだろう。
 僕が前、丘が後ろ。自販機のたびに飲み物を買いながら、静かな里の道を黙々と歩く。

 やがて案内看板が現れ、シラス台地から海岸への急坂を降りて、4時半に砂蒸し温泉に到着。前は太平洋、後ろはシラス台地の断崖に挟まれ、周囲からまったく隔離された、砂蒸しのためだけの秘密の場所という感じだ。受付と着替えのコンクリート施設のほかは何もない。
 かいもん荘からここまで1軒の店もなかったため、お腹ペコペコ、足ヘトヘト。今降りた急坂をあとでまた登るのかと考えるだけで倒れそうになる。しかも山川駅まではまだ7〜8kmはある。
 「丘、これで砂蒸ししたら、もう歩かれへんぞ」
 「どうする?」
 「しゃあない、おとうがカワイコちゃんをナンパするから、車に乗せてもらお」
 「えーっ!」

 さすがは黄金週間、駐車場にはズラーっと車が並び、砂蒸しは満員御礼状態。こんなにたくさんの人間を見るのは、なんか久しぶりだ。
 でも、ここまで歩いて来るようなバカは一人もいない。

 とりあえず砂蒸し。大人800円、小人600円で、浴衣を借してくれる。着替えて砂浜に出ると、順番待ちの列ができている。アベックや若者のグループが多い。
 待っている間、丘は近くの砂浜を掘って遊んでいた。どこを掘っても熱い湯が湧き出てくるようで、夢中になっている。

 20分ほどで順番がきた。砂に横たわり、砂かけおばさんに砂をかけてもらう。かなり熱い。腕や首の日焼けあとが心配だったが、ヒリヒリせずに一安心。
 疲れた足に重くて熱い砂が乗ると、たまらなくジュワ〜だ。芯から何かが融解する。汗がどんどん吹き出る。
 丘は10分ほどでギブアップ、僕は15分ほどで切り上げた。

 併設の風呂(もちろん温泉)で砂を洗い流し、着替えて丘と外へ出る。登山靴の紐を結んでいると、砂蒸しを終えた若い女性二人組が目の前を歩いて行く。チャーンス!
 あわてて紐を結び、追いかけて声をかける。
 (この後の高等技術は極秘だよ〜んフフフフ)

 鹿児島市内から来ていた彼女らには、山川駅まで車で送ってもらった。歩けば1時間半の行程が、わずか10分・・・すごいなあ。車に乗るのがなにかものすごく久しぶりなような、不思議な感じがした。
 疲れていたので非常に有難かった反面、あとになって、砂蒸しから山川駅までの道を歩いてみたかった気も少しした。竹山をぐるっとまわって山川漁港に出る、のびやかな風景だった。

 駅で時間を見ると、列車が来るまで1時間ある。腹が減って死にそうだ。
 駅のそばには、夕べ泊まったくりや食堂がある。カツオのたたきである。

 かいもん荘の露天風呂で会った宮崎の人は、この日の昼にここのタタキを食うために入口で40分待ったと言っていたが、この時にはもう客は数組しかいなかった。
 朝6時半に列車の中でパンを食って以来の食事だ。11時間ぶり、しかも歩き詰め。
 タタキ、冷奴、ビール。・・・しみる。しみまくりだよ、おっかさん!(涙)
 丘はラーメンを食った。350円。
  

 指宿元湯で使い切る

 夕方6時半過ぎの列車で指宿へ。3日間でこの山川-指宿の1区間を4回も乗ってるな。
 指宿駅に着くと、小雨が降りだした。週間予報で「ずっと好天」と言ってたので傘は持ってこなかったが、まあ濡れながら歩いてもいい程度の降り方。

 この日の宿「元屋」は、駅から2kmほど離れた指宿温泉街(湯の浜地区)にある。
 駅から中央商店街を通り、南北のメインストリート「ハイビスカスロード」を歩くうち、日が暮れてきた。
 観光地というのに、どこもかしこも、まったくもってさびれている。居酒屋や郷土料理の店が思い出したようにチラホラあるだけで、歩く人がいない。コンビニすらない。

 温泉街まで来ても状況は一緒だった。滅び去ったような、看板のはげたストリップ小屋がいちおうある。ソープらしき看板を掲げている店もあるが、建物はまるで廃屋みたい。これ、やってるんかいなと覗き込んでいたら、丘が聞く。
 「おとうさん、今日泊まるの、ここ?」

 元屋は、市営の共同浴場「元湯」の近くにある自炊の湯治宿。渋い和風建築の元湯はすぐに見つかったが、元屋は全然見つからない。日が暮れてもう真っ暗だ。
 元湯の番台のじいさんに聞いたら、番台をほっといてわざわざ案内してくれた。

 元屋は、元湯のすぐ裏手にあった。でも木彫りの看板は奥まったところにあり、小雨の夜では全然見えない。
 建物は太い梁のある古い木造で、通された部屋は6畳+板張りのキッチン2畳。ガスレンジ・冷蔵庫・食器・炊飯器・湯沸し器・テレビ(無料)などの生活用具一式がすべて部屋に備え付けだ。はき出しの縁側が庭に面していて、玄関とは別にその縁側からも出入りできる。
 宿泊料金は1人1泊2800円、小学生は半額。2泊以上になると2500円になり、人数が増えるほど1人あたりの宿泊代は安くなる。縁側の軒下に洗濯物をずらーっと干しているおばさんは、たぶん長期逗留しているんだろう。
 設備・価格ともに3泊中最高の宿だ。それで2800円つーんだから、俺の「最高」って・・・。

 とりあえず、裏の元湯へ。大人200円、小人100円。
 最近改築されたようだが、どっしりとした旅籠風の渋い木造建築で、年月が経つほど味わいが出るだろう。けっこう広い浴室に、岩風呂風の四角い湯船が2つ。岩から落ちてくる仕掛けの湯は、指宿に共通の薄い食塩泉だ。薄暗い目の照明も雰囲気があってよろしい。
 客は他に鹿児島市内から来たという同年代が一人だけ。せっけんを借りた。
 ここにも「トド枕」があったので、例によって湯船の縁で仰向けになり、腹にダラダラと湯を掛ける。今日はよく歩いたなあ・・・。

 風呂からあがり、丘と近くのコンビニへ行って、おかずやビールをいろいろ買う。もうお金はほとんど残っていなかったが、まあどうせ明日の朝に鹿児島銀行でおろせばいいんだからと、全部使い切った(これが翌日悲劇を招こうとは予想だにしなかった!)
 鹿児島県産の「川内大綱ビール」というのも見つけたのでそれも買う。

 それにしても、霧雨がしのつく夜8時すぎ、さびれた温泉街のメインストリートには相変わらず人通りがほとんどない。
 でも、さっき見たときは廃屋のようだったストリップ小屋やソープには怪しい灯りがともり、営業が始まっているようだった。ここは「千と千尋」の世界かよ!

 部屋へ戻って湯を沸かし、竹内結子ちゃんのドラマを見ながらなんやかや食べる。川内大綱ビールは、薩摩ビールに比べるとイマイチだった。
 丘は9時半を過ぎると寝てしまった。僕はなんか妙にくつろいで一人酔っ払い、縁側横の木製イスに腰掛けて神戸の知人と長電話したり。
 なんかこの宿はいいね。11時ごろに寝たのかな。

  この日の万歩計:37437歩(約24.3km)

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