人吉
悲しき銭湯の聖地巡礼

(2004年1月24〜25日)

いきなり絶望の淵へ
さすがは聖地・・・
前に「お」がつく夜の街
松風さわぐ丘の上
「今、私はしあわせです」
残り福(04.3.22)

ちょっとした旅ホーム
ついに聖地へ

 出水のツル地獄を経て、姉弟はレンタカーで熊本県人吉市に入った。
 人吉(ひとよし)は「九州の小京都」と言われる九州最奥の小さな渋い街だが、僕にとってはあこがれの「聖地」でもあった。

 なにしろ人口わずか3万数千人の小さな街に、熊本県の銭湯組合に加盟する銭湯だけで12軒もある(人吉より人口の多い出水市には1軒もない)。この銭湯密度は日本トップクラスのものだろう。
 しかもそれらはすべて温泉で、ほとんどが掛け流しのようだ。
 それだけではない。その他の共同浴場や外来入浴のできる旅館を含めると、市内の徒歩圏内だけでも27軒の入浴施設があるらしい。
 さらに驚いたことにそれら1軒1軒が異なる泉源を持ち、湯の質が全部違うために「人吉温泉」としてはくくれない一大温泉郷であるという。

 まさに人吉は銭湯の聖地であると言わざるを得ない。
 人吉を知らずして銭湯は語れまい。
いきなり絶望の淵へ---メッカとメディナの危機

 県境の長いトンネルを抜け、山に囲まれた人吉盆地へ入る。人吉インターチェンジを出たのは夕方4時すぎだった。
 高速道路ができて便利になったが、それまで人吉はそうとう不便なところだったろう。四方を峻険な山に囲まれ、県庁所在地の熊本市まで出るには球磨川渓谷をウネウネと走る列車で1時間半かかる。
 しかし聖地とはそういうものだ。巡礼の旅は厳しくなければならない。

 インターから人吉駅へ向かう途中にある鶴亀温泉は、今回の聖地巡礼では2番目に重視している激ヒナビの温泉銭湯だ。一番目をメッカとすればここはメディナに相当する。宿へチェックインする前に、まずは写真だけでも撮っておこう。

 車がやっと通れるくらいの渋い路地をぐねぐね曲がったところに鶴亀温泉はあった。駅から徒歩だと10分たらずか。そのタイムスリップ度200%の外観に、思わず「おぉー」と声が出てしまう。

  

  鶴亀温泉、すごいヒナビっぷり

 板壁の白ペンキが山の分校を思わせる。うむ。今日の一番風呂はここだな。
 ところが正面に回ると張り紙が。

 「しばらくのあいだ休業します」

 なななななぬぅーーーーー!!!
 はるばるメディナまでたどりついたばかりの巡礼者は呆然と張り紙を見つめ、ガックリと膝を地に着けて肩を落とす。

 ・・・でも、まだメッカがあるか。
 巡礼者は遠くを見つめ、なんとか立ち上がって鶴亀温泉を後にした。
 とりあえず駅へ向かい、観光パンフ類をあさる。

  人吉駅

 人吉の駅前は出水とくらべるとずっと賑やかで、落ち着いた観光都市の趣きだ。駅前通りの雰囲気もなかなかよい。
 まちの中心部は駅から歩いて10分くらい離れている。そこにある一富士旅館にチェックイン。古そうだが小奇麗に改装されていて、玄関まわりもセンスよく飾られている。朝食つき5500円。

 しかしメディナの休業によって不安に駆られた巡礼者は、落ち着いてはいられない。姉を宿に残し、タオルと石鹸を握りしめてさっそくメッカ巡礼へと向かう。

 メッカ・・・それは「新温泉」という名の銭湯。名前とは裏腹に、その渋い建築、激レトロぶりが温泉銭湯通の間で知られている。
 メインストリートのアーケード街「九日町」から細い路地を少し入ると、夕暮れの新温泉がドドーンと現れた(このページ冒頭の写真、翌日撮影)。

  新温泉を正面から

 おお、聞きしに勝る、味わい深い建物だ。外から覗けるような開放的なガラス戸の中で、湯気に曇った黄色い電灯がどこか神秘的にともる。この雰囲気は関西の銭湯にはないものだな。
 さっそく中へ。

 ・・・と!

 男湯の入口の戸に、また張り紙が。
 おそるおそる、目を走らせる。

 「湯量減少のため、とうぶんのあいだ女湯のみの営業とさせていただきます」

 ファサッ・・・
 神戸から持参した白いタオルが冷たい地面に舞い落ちる。

 アッラーよ。あなたはなぜにこの敬虔なる信者に対して、これほどの悲しみをお与えになるのですか。
さすがは聖地・・・---人吉温泉と「きじや」

 だがそこはさすがに聖地。第1希望第2希望がダメでも、すぐ近くに他の銭湯がいくらでもある。
 新温泉から西へ徒歩5分、球磨川の堤防に近いところを歩いていると、こじんまりとした蔵っぽい建物が現れる。その名も「人吉温泉」。これまた雰囲気のある、古いけどちょっとかわいい感じの外観だ。

  白壁がレトロムード

 さっそく入る。すぐ番台があり、おばちゃんに300円を払う。
 浴室は狭いが、誰もいない。4〜5人サイズの古い湯船が一つ。反対側に真新しいカラン&シャワーが5つくらい並んでいる。かわいいミニ銭湯だな〜。

  湯気もうもう

 そして湯は、おっ、薄いけど黒湯の掛け流しだぞ。トプーンと入る。42度くらいか。湯の触感にはさほど特色はないが、ややツルスベ系。
 外はかなり寒くて手足が冷え切っていたこともあって、あぁ・・・こりゃマジ極楽じゃわ。伸ばした体を裏返したり表返ったり。貸切だとこれくらいの広さで十分だな。
 隅にぬるいかかり湯もあり、それをかぶったり、また湯船に入ったり。人吉温泉のレポートはこちら

 もっとゆっくりしていきたかったが、腹が減ってグーグー鳴り出したので、なごり惜しいながらも切り上げる。
 ぬくぬくになって夕暮れの街を宿へ戻ると、姉は部屋で一人だらしなくくつろいでいた。

 さっそく二人で夕食へ。ネットで発見し、楽しみにしていたお店「きじや」へ。市街地からやや離れたところなので、車を走らせる。いつもの徒歩旅じゃ行けないな。
 国道267を南へ約十数分。
 「きじや」は、ひなびた民芸風の「きじ料理」の店だ。きじなんて食ったことないんだが。

 土間を抜けるとシダなどの生えた通路があり、その片側に1組ごとの個室が並んでいる。中には掘りごたつが置かれ、やや暗めの照明が田舎風の雰囲気を醸し出す。客室の窓の外は川で、鴨が水に浮かんで寝ている。
 土間の奥では水車が回り、その回転を利用して棒が焼酎のビンをたたいて「五木の子守唄」を奏でる(つまりオルゴール)という、素朴な演出もある。
 いやー、これは相当感じいいぞ。

   (右)掘りごたつのある客室
 (左)通路。右側は川の土手のようで石垣むきだし。客室部分は川に張り出している感じ

 掘りごたつに収まって、きじの炭焼きコース(3000円)と鍋コース(3000円)を1人分ずつ注文した。付き出しから始まって、どんどんきじが出てくるわけだが・・・。

  

  (上左)きじ刺身 (上右)炭焼き (下)鍋のきじ肉

 ・・・プリっとした食感。においやアクはなく、あっさりしており、ほんのり甘みがある。いやー、ここここりゃ・・・うまい〜。
 しかもこの店、刺身につけるタマリや炭焼きにつける粗塩、きじ飯についてくる梅干などの添え物がいちいち絶品。それらを舐めながら球磨焼酎を飲むだけでも満足できそう。
 鍋のきじ肉はそのまま刺身で食ってもうまい。そしてシメの鴨雑炊がまたなんともアンタ・・・。
 コースは量もたっぷり。次から次へと惜しげもなくきじが出てきて、「こんなに食えるかいな〜」と思いながらも、あまりにうまいので完食してしまった。

 それにしても、これだけ食って3000円か・・・。店の雰囲気も合わせて考えると、神戸あたりじゃ間違いなく1万円以上はとられるな。
 前日は「フジヤマ・ゲイシャ・出水のツル」と叫んだ僕だが、ここに来て「フジヤマ・ゲイシャ・きじや」と叫ばざるを得ない境地に陥った。
前に「お」がつく夜の街---堤温泉から紺屋町

 腹パンパンの大満足で8時ごろに人吉市街に戻る。腹が満足したら、やっぱりもう一回温泉に入ってさらなる快楽を極めないと、人生に対して失礼というものでしょう。
 夕方見つけておいた「堤温泉」の前で僕だけ車から下ろしてもらう。
 ここも人吉屈指のレトロ銭湯だ。大正期に立てられた建物だと。

  堤温泉(夕方撮影)

 玄関を入ると、オヤジが番台の中にコタツをしつらえて、それにもぐってミニテレビを見ている。湯銭200円。

  コタツ入り番台

 戸をあけるとガラーンとした広い脱衣場に籐籠。先客1名。
 浴室に入ると・・・ナンダ〜? 湯気の向こうに何かの植物が繁っているぞ。もじゃもじゃっと生えて、窓に沿って広がっている。この葉っぱの形・・・。
 ゴムの木だ。ゴムの木って、こんな繁り方をするんかい!

  暗いけど、隅から生えたゴムが左右に伸びて窓を覆う

 お湯は44度くらいとやや熱めで無色透明。肌触りはキュッパキュッパする感じ。
 満腹の腹をかかえてドッブワァ〜と浸かり、のぼせたら出て水をかぶり、また浸かってのぼせ・・・を繰り返す。堤温泉のレポートはこちら

 十分堪能して上がり、球磨川の橋を渡って中心街へ。
 飲み屋街は「紺屋町」あたり。小さい街にしては盛り場の規模が大きいな。夜になってかなり冷え込んでるのに、けっこう人も歩いている。まあ僕も温泉のおかげでポッカポカなので、他の人たちもそうなんだろう。

 小一時間、そのあたりを徹底散策した。
 味噌倉や鍛冶屋も残る古い街だ。細い路地や袋小路に迷い込み、ひなびた居酒屋や廃屋に出くわす至福のひととき。

  
 (左)夕暮れの路地裏  (右)夜の紺屋町かいわい

 歩き回ってさすがに少し冷えてきたので、「幸えん」という小さな飲み屋に入る。50歳くらいのおかみさんと、カウンターに初老の痩せたオヤジ客が一人。
 あてをつまみながらビールと球磨焼酎を飲む。

 

 おかみさんは若い頃、大阪ミナミでの水商売経験があるらしい。10年くらいたって一度里帰りしたときに、みんながしきりに「帰って来い帰って来い」と言うので、そのまま故郷で暮らすことになった。今は中学生の母親だ。
 オヤジ客は元ラーメン屋店主だったが妻に逃げられ店もつぶれ、今は土木作業員。方言がきついうえにかなり酔っていて、おかみさんの通訳がないと会話が成立しない。

 人吉の言葉と熊本の言葉は全然違うらしい。球磨川河口の八代市とも違い、話すとすぐにわかるという。
 オヤジ「八代の言葉は汚いよ。人間も荒っぽい奴が多いしな」(おかみ通訳)
 僕「人吉の人は優しいんですか? ・・・あぁそうか、ひとよし、ですもんね」
 おかみ「人吉はねぇ・・・前に『お』がつくのよ」

 オヤジは僕より一足先に席を立った。「寒いですよ、気をつけて」と言うと、満面の歯抜け笑顔で自転車にまたがり、ヨロヨロと闇へ消えて行った。
 僕は12時過ぎに店を出た。たいがい飲んだのだが、「お人吉」なおかみさんは 「2000円でいいよ」と言った。

 宿に戻ると、姉が布団の海で豪快にのたくりながら爆睡していた。「あんたはザトウクジラか!」と吐き捨て、隣の布団にもぐりこんだ。

 この日の万歩計
 ツル見物(約5km)の後にリセットして20479歩(14.335km)、計約19km
松風さわぐ丘の上---元湯から人吉城跡

 翌朝。
 一富士旅館の朝食は豪華で大満足だった。が、BGMになぜかキャンディーズのベスト盤がかかっている。冬の人吉で、朝っぱらから「あなたに夢中」「年下の男の子」「春一番」「やさしい悪魔」などを畳み掛けるように聞かされたわけだが、キャンディーズって人吉出身じゃないよね?

 「午前中は川辺川ダムに水没する五木村を車で見に行く」という姉とはまた別行動、僕は先に徒歩で出発。狂ったダム政策で近々破壊予定の日本最後の超清流・川辺川も見たかったが、今回はまち歩きを優先した。
 宿の外へ出ると、ピリッと冷え込んだ空気が体を包む。もう一度新温泉の前を通り、古い家並みの市街地を歩く。

  
 (左)朝の人吉  (右)アイフルも「川辺川ダム絶対反対」

 人吉は球磨川の北側が市街地、南側が人吉城跡になっている。
 球磨川にかかる橋を南へ渡ると、人吉城が球磨川とその支流を堀に見立てた天然の要塞だったことがよくわかる。

  
 (左)球磨川  (右)本流と支流の合流点に櫓

  支流の橋を渡って城内の市役所方面へ

 市役所近くには「元湯温泉」がある。入母屋作りの風格ある建物。まずはここで朝風呂だ。
 板の間の脱衣場は広々していい感じ。浴室には四角い湯船がひとつ。地元の中高年が4〜5人入っている。
 むおっ、これまた昨日の人吉温泉や堤温泉とはまったく違う湯だな。ややヌルスベ系で、かすかに緑色か。湯の花が漂い、しばらく入っていると全身に細かい気泡がくっついてくる。昨日の2湯よりも温泉力を感じる。
 なは〜、朝っぱらから極楽やがなこりゃ。
 湯船のへりで体を洗い、週に1度しか剃らないヒゲまで剃った。元湯のレポートはこちら

   元湯

 湯上がりぽっかぽか、全然寒さを感じなくなった。すぐ近くの人吉城跡に入って歩き回る。
 この城跡はなかなかすばらしい。あまり整備されずに荒廃した感じがそのまま残されているのがいい。苔むした石垣がなんとも雰囲気。気がつくと、いつの間にか三橋美智也の「古城」を口ずさんでいた。ウム〜、城跡ファンになってしまいそうだよ。
 よく町おこしなどで、焼失した天守閣を再建したりするところがあるが、この城跡は絶対にそれをしないほうがいいだろうな。
 写真撮りまくったのでご鑑賞あれ。

  
 (左)石垣の上から人吉名物の球磨川下りが見える  (右)川岸から見上げた城砦

  

  
 (左)石垣を縫って登っていくと・・・  (右)城跡の頂上、天守閣があったと思われる場所に出る

  
 (左)頂上から人吉市街地の眺め  (右)球磨川を掘に見立てた城砦
「今、私はしあわせです」---願成寺温泉から「うえむら」

 人吉城跡をあとにして再び球磨川にかかる橋を渡って北へ。
 ゆうべの宿で「新温泉が入れなくて残念」と言ったら、「願成寺温泉がいいですよ。なかなかレトロな雰囲気で」と教えてもらったので、そこへ向かう。約2kmほどか。
 古い家の多い静かな住宅地の細道を縫うように歩いていると、とある米屋に何やら紙が、やたらベタベタと貼ってある。期待に胸膨らませながら近づいてみると、こんな文章が書かれてあった。

  
 (左)謎の米屋  (右)並んだ食塩の下に、小中学生への力強いメッセージ

  「今、私はしあわせです」で締める、感動の人生訓

 これぞ、ひとよし!
 米屋の軒先、人生に迷った人を温かく包む、余計なおせっかいの大安売りだ。思わず「もろたぁーーっ」と心の中でガッツポーズをしてしまう。
 ビバ、ひとよし!

 心も元気になって足取り軽やかに、目指す銭湯に着いた。
 正式には「相良藩願成寺温泉」という。人吉市街の北西のはずれ、球磨地方を300年間治めた相良藩の菩提寺である願成寺のそばにある。

  
 相良藩願成寺温泉

 見た目はやや殺風景な建物。しかし板張りの脱衣場には懐かしの童謡がかかっていて、あたたかな雰囲気だ。
 そして浴室は、大小2つの円形の湯船がひょうたん型につながっており、45度くらいの源泉が注がれている。お湯自体は元湯のほうがインパクトがあったが、銭湯としては今回訪れた4湯の中ではここが最も気に入った。じっくりとことん長湯したいところだったが、昼には人吉駅で姉と待ち合わせの約束だ。もう時間がそんなにない。
 泣く泣く40分ほどで切り上げる。願成寺温泉のレポートこちら。

 やや早足で、古い街並みを西へと歩く。
 落ち着いた田舎町だ。「小京都」と言われるが、雰囲気は京都というより明らかに奈良。でも「小京都」と言われてる街って、金沢以外はたいてい奈良っぽいんだよな。

  

  どこまでも歩きたくなる人吉の街並み

 人吉駅で姉と落ち合い、いっしょに昼メシを食いに行く。
 中心部の鍛治屋町に、うまそうなうなぎ屋が2軒並んでいるのが気になっていた。ここは山奥の盆地だから、名物は球磨川の川魚なのだろう。
 夕べ「幸えん」で「どっちがうまいですか」と聞いたら、酔っ払いオヤジは「うえむら」、おかみは「しらいし」と意見が分かれた。どうやら「うえむら」は老舗、「しらいし」は食べやすい、ということのようだ。
 前へ行くと、「うえむら」は古民家ふう、「しらいし」はビルだった。
 で、ここはひとつオヤジの意見を採用して「うえむら」に入る。

  うえむら

 店内はかなり古い造りで、どこもかしこも黒光り。
 姉はおとなしく「うな丼」、僕は姉が「おごってやる」と言うので、リッチに「うなぎ会席」を注文した。うざく・塩焼き・味噌焼き・蒲焼にごはんと汁と漬物がついてくる。

 まず、うざくが出てくる。いきなりたまげた。
 普通「会席」というものは上品な料理が上品な器に少量ずつ盛られて出てくるものを想像する。
 ・・・うざくがドンブリいっぱいになって出てくるのをキミは見たことがあるかね明智君?
 「これとごはんだけで十分一食分やな」と言いながら食っていると、塩焼きが来た。これまたデカイ。普通の一食分のうなぎ。
 しかしこれはかなり美味だ。あっさりしてるし。とつついていると、味噌焼きが来た。おいー! 塩焼きと同じ量があるがな。うざくからもう3食分のうなぎがテーブルを埋めてるよ!
 でも、これもさすがは味噌の産地だけあってうまい。いやー、普通じゃうなぎなんてこんなにたくさん食う気がせえへんけどこれは食えるわ〜、でもたしかまだ何かあったような・・・。
 と言ってるところへ、トドメの蒲焼が来た。これまた普通の蒲焼一食分・・・。

 テ、テーブルに乗らねーーーー!
 しかもよりによって最後に一番ギトギトしたやつが!

 こ・ん・な・に・食・え・る・かーーーーい!!

 姉も腰を抜かして、いつになくやさしく「あんた、もう残し」と言ってくれる。
 ところがだ。僕は完食してしまったよ。うまかったんである。
 しかしそのあと丸一日、僕がうなぎ風味のゲップを吐き続けたことは言うまでもない。

 昨日の「きじや」といい、どうやら人吉は大阪以上の「食いだおれ」の街だった。
 人吉おそるべし!

 
 食後に立ち寄った「みそしょうゆ蔵」
。みそ造りを見学できる。

残り福---湯浦温泉「岩の湯」でトドメさされる

 さて。まだ人吉の東半分しか歩いていないが、もう出発しないと帰りの汽車に間に合わない。あと半分はまたいつかの楽しみに置いとこう。
 最後に、人吉駅から10分ほどのところにある青井阿蘇神社に立ち寄った。すべて茅葺造り・漆塗りの古〜い神社。一般的な銅葺き神社より素朴で、ぐぐっと神秘的。素晴らしい。
 おっと、タイル教信者としたことが茅葺に浮気しちゃったよ。

  
 (左)青井阿蘇神社の楼門  (右)拝殿・本殿

 さて、今度こそ人吉を離れ、レンタカーは球磨川沿いの渓谷をうねうね下る。途中で峠を越えて不知火海へ。
 水俣でクルマを返して汽車に乗ることになっているが、少し時間があったので、かねて狙っていた芦北町・湯浦温泉の「岩の湯」を探す。超素朴で超優良との噂のお湯だ。

 岩の湯は、国道脇に朴訥に現れた。モルタルの安普請な建物だ。
 番台で湯銭170円を支払い、浴室に入ると小さな小判型の湯船が2つに分かれていて、一方の端から無色透明な湯が掛け流されている。

  
 (左)湯浦温泉・岩の湯。見るからに地元密着銭湯だが・・・  (右)この湯がすごかった!

 さっそく浸かってみる。
 ・・・んおおおううーーーー! こここれは!
 ぬるぬる、スベスベ! そして無数のアワアワが全身に付着してくる。す、すごい。メチャクチャに気持ちエエ!
 湯の注ぎ口はなぜか石でできたウサギで、その口からお湯がドーっと注がれている。壁に貼ってあった分析表には「44.1度」と書いてあったが、ウサギ口で41度、浴槽全体では40度くらいか。つまりややぬるめなんだが、そのぶん長湯できて、そのことが嬉しくなるような、そんな極上のお湯だ。
 にゅる〜ん、ぽわ〜ん、つる〜ん。ウヒョヒョヒョヒョ!

 いやー、「出水ツル地獄」から長々と書いてきたが、最後の最後に入ったこの風呂が、お湯としては最高だったかも。しかも一番安い。
 わからんもんですなあ、温泉、奥深し。

 この上ない満足をもって、旅は終わりを告げたのであった。完。

  
 (左)帰りの汽車は水俣駅から  (右)駅前通りの正面はチッソ本社

 この日の万歩計 : 19191歩(約13.4km)
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